自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

新木造住宅技術研究協議会-前編-

モデルハウスを見学したわけではありませんが、面白い取り組みを見つけました。「新木造住宅技術研究協議会」と言います(略称「新住協」)。
これはその名の通り、ハウスメーカではなくNPOです。ウェブサイトには、「高断熱高気密を全ての住宅に必要な基本性能として捉え、省エネで快適な住まい造りを目指した住宅技術研究団体です」とあります。工務店設計事務所、建材・設備業者など、全国に650の会員が居るそう。
室蘭工業大学教授の鎌田さんとおっしゃる方が技術指導にあたられているとのこと。

 

1.北海道、東北中心に活用されている

別にこの団体に限りませんが、寒冷地の方が住宅の性能に対する要求は高レベルなので、高性能な住宅は北から普及する傾向にあるようです。新住協が室蘭工大に技術的ルーツを持つのも、必然なのでしょう。

気を付けねばならないのは、「新住協の会員だからと言って、全員が高性能な住宅を問題なく施工できるとは限らない」と明言していることです。新住協はあくまでも勉強の場という位置づけのようです。塾に通っている子供が全員成績優秀とは限らないのと同じですな。
一方、マスター会員という制度もあるようで、これは会員が希望し、かつ新住協自身が「一定以上のレベルを有する」と認めた場合に登録されるものです。マスター会員リスト(2020/04/19注:リストは一般公開を止めたらしく、リンク切れ)を見ると、大半が北海道か東北の業者なので、高性能住宅の需要は北方に多いことを改めて感じます。

 

2.グラスウールを使用

「いくら高性能とは言っても、安く作れなければダメだ」という当たり前の発想を元に、グラスウール断熱を採用しています。
ただ、新住協が批判的な樹脂系断熱材は、「価格はグラスウールの3倍」と言うととてつもない気がしますが、家全体の価格に比べたら大したことがないと思います。勿論、それだって安い方がいいに決まってはいますけど。

グラスウールの場合、問題になるのは壁体内結露による性能低下や、カビ・腐朽の発生ですが、「気流止め」をしっかりやれば問題ないと主張しています。実際、築10年以上経っている家の壁をわざわざ剥がして、グラスウールがどうなっているかを確認した写真(2020/04/19注:これもリンク切れ)も載っていますが、確かにグラスウールはぴんぴんしています。(築8年の住宅で、僅かに黒ずんでいるものも1例だけ載っていますが、8年でこれならあと数十年は大した問題なく過ごせるでしょう。)

グラスウールを使うもう1つの理由は、「燃えない断熱材」だからだそうです。
確かに、樹脂系の断熱材は燃えます。多くの樹脂系断熱材は難燃性を持っていますが、難燃性とは「炎が外から来なくなったら火は消えます。自分自身で燃え続けることはありません」というもので、他から炎がやってきている場合には、燃えます。それに対して、グラスウールはそもそも燃えません。安全性が高いというのも、根拠のないことではありません。
ただねぇ、難燃性のある樹脂系断熱材が燃え続けるためには、炎がどこかからやってきていなければなりません。早い話、柱など他のものが燃えていなければ、断熱材が燃え続けることもないのです。で、冷静に考えて、柱が燃えているなら、断熱材が燃えていようがいまいが、大差ないんじゃないかと思えます。細かく言うと、延焼時間が長くなるので避難しやすいなど、多少は利点があるかも知れませんが。
なので、「グラスウールは燃えない」を殊更に重視しても、それほど大きな意味はないだろうというのが私の意見です。少なくとも、室内側から火が出た場合には、ほとんど関係ないハズです。隣家からのもらい火の場合には、少しは差があるかも知れません。

 

3.目指すは「Q1.0(キューワン)住宅」

Q1.0住宅とは、読んで時のごとく、「Q値が1.0の住宅」のこと。これが新住協が目指す性能だそうです。実際には、単に断熱性を高めてQ値を1.0にするだけでなく、太陽光を室内に取り入れて暖房の必要性を少なくするなど、様々な工夫を積み重ねて空調費をなるべく抑える住宅を作ろうという試みです。勿論、建設費の上昇を可能な限り抑えつつ。

 

4.大学主導であるが故の理論的裏付け

新住協のサイトをいろいろ読んでみると、「やっぱり大学がバックに付いていると、主張内容が論理的だな」と思わせます。「自然素材で健康住宅」などといった、言葉の印象だけで語るタイプとは一線を画しています。議論が噛み合う気持ちよさを感じます。(読んだだけで議論してませんけど。)
明示的には書かれていませんが、仮説・検証という工学の基本的な考え方が背後に通っているのを感じ、それが安心感につながります。例えば、建物の熱容量を大きくするための取り組み(未だ始まったばかりのようですが)など、理論的に考えれば当然行き着く項目に対して、具体的に改善策を進めていることが覗えます。

余談ですが、こちらの資料(2020/04/19注:これもリンク切れ)には、「冬期間の晴れた日には住宅内の温度が、太陽熱で高くなりすぎることが多くなります」と書いてあり、「だから大きな熱容量が必要」とあります。私も以前同じ事を書いたのですが、「理屈立てて考えると、必然的に同じ答にたどり着く」という事例ですね、これは。

また、大学主導というと、机上学問になって現場から遊離してしまう危険がなきにしもあらずですが、鎌田さんは学問と現場を上手くバランスさせながら研究を進めているようです。

 

5.大学主導であるが故の限界

これが大学主導であることに起因することかどうか、正確な理由は不明ですが、何となくそんな気がします。それは、1項でも触れた「消費者に対して性能を担保する仕組みがないこと」です。もっとはっきり言うと、「この工務店に頼めば確実に高性能な住宅を建ててくれる」というお墨付きは、特に無いと言うことです。

あえて言えばマスター会員がそれに該当しますが、会員企業が650社もある中で、マスター会員は100社にも届きません。
これでは安心して任せることが今ひとつ出来ません。(たまたま自分の居住地にマスター会員が居ればいいですが。)

以前話を聞いたFASの家なら、本部が加盟工務店の実力を担保してくれます。単に勉強会に留まらず、実力が一定レベル以上にあることを本部が保証してくれるわけです。
「本部が信用できるか?」という問題は勿論ありますが、本部が信頼に足ると判断できれば、ほぼ自動的に会員工務店も信頼できるというフランチャイズチェーンの利点がFASの家にはあります。それが新住協にはありません。たとえ新住協が信頼できると思えても、その会員工務店がどうであるかは全く別問題なのです。

消費者の立場では、「もう一歩踏み込んで欲しい」と思わずにはいられません。

ここで言っている「会員工務店が信頼できる」というのは、あくまでも断熱などの性能面に限った話です。間取りの提案力が有るとか無いとか、価格が高いとか安いとか、家全体の満足度については全く別の話になります。


-後編に続く-