自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

寒いのに暑いのは何故か-後編-

-前編から続く-

2.輻射熱の効果

湿度に並んで大きな影響があるのではないかと想像されるのが、輻射熱の影響です。
輻射熱とは何の話かというと、全ての物質から放射されている赤外線のことです。サーモグラフという装置をご存じの方は多いでしょう。特殊なカメラのようなもので撮影するこの装置で、写ったものの温度が何故分かるのかというと、写したものから出ている赤外線の量を測定しているのです。温度が高ければ多くの赤外線が出てくるし、低ければ少ししか出てきません。出てくるその量から、対象物の温度を逆算しているのです。

ここで大切なのは、全ての物質は常に赤外線という形でエネルギーを外部に出している、と言うことです(出しているからこそ、サーモグラフで測ることが出来ます)。そして、エネルギーを外部に出していると言うことは、出した分だけ自分自身のエネルギーは少なくなり、温度が徐々に下がってくることを意味します。
例えば、熱々の料理をテーブルの上に置いておけば、徐々に冷めてきます。これは、触れている空気に対して熱を渡すことで自分自身が冷える伝導の効果も勿論ありますが、赤外線として輻射熱を周囲に放出することで自分自身のエネルギーが減る輻射の影響も大きいのです。
ここで1つ疑問に思った方がいるかも知れません。「
熱々の時より赤外線の量は減っているとしても、室温と同じ温度でも赤外線は出ているはずだ。だったら、料理は放置しておけばどんどんエネルギーを失って、部屋の室温よりも冷たくなっていく理屈になる。でも現実には、料理は部屋の室温と同じになったらそれ以上には冷えない。おかしいじゃないか」と。
この疑問に答える鍵は、「周囲のテーブルや壁、天井なども、同じように赤外線を出している」ということです。
つまりこういう事です。

(1)料理が熱々のとき

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熱々の料理からは、大量の赤外線エネルギー()が周囲に出て行きます。
一方、周囲の壁や天井からも赤外線が出ており、その内の一部は料理に当たって料理に吸収されます()。
料理から出て行くエネルギーと、料理に入ってくるエネルギーの両方がありますが、出て行く方が圧倒的に多いので、「歳出超過」になり、料理は徐々にエネルギーを失って冷めてきます。

(2)料理が冷めたとき

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料理が冷めるにつれて放出される赤外線の量が減り、室温まで冷めると、出て行くエネルギーと入ってくるエネルギーがバランスします。
釣り合いがとれると、料理はエネルギーが増えも減りもしなくなるので、温度はそれ以上変化しなくなります。
このため、「際限なく料理の温度が下がる」ということにはなりません。

同じ話は人体に対しても言えます。人が快適と感じる室温(例えば25℃とします)の時、
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人体からは、36℃に相当する赤外線が出て行きます。
一方、周囲からは、25℃に相当する赤外線がやってきて、人体に吸収されます。

温度が高い分、出て行く方がやや多く、その分だけ「歳出超過」になっていますが、どうやらこの「若干の歳出超過状態」が人間には心地良い様です。
人間は特に運動していなくても基礎代謝分のカロリーを消費して心臓や内臓を動かしています。その活動の分だけ人体は内部発熱を持っていますから、内部発熱と同じだけのエネルギーを外部に放出しないと、どんどん熱が溜まって体温が上がってしまいます。その為、「若干の歳出超過状態が心地良い」と感じるのではないかと私は思っていますが、医者でも生理学者でもないので、想像の域は出ません。

ともあれ、この「若干の歳出超過」を外れると、不快感を感じるわけです。
例えば、焼けて触れないほど熱いアスファルトの上に立てば、大量の輻射熱(赤外線)を浴びて気温以上に熱く感じるでしょう。更に日陰から出て直射日光を浴びれば、太陽からの強烈な輻射熱をまともに浴びるので、更に熱く感じます。

正確に言うと、人は服を着ていますから、人体からの赤外線は周囲に直接放射されるのではなく、服に吸収されます。で、服の温度が上がって服は上がった温度に相当する赤外線を周囲に出します。
なので、単純に36℃と25℃の差ではありません。上記では分かり易いように単純化して説明しました。

夏にエアコンをつけて室温が下がればそれなりに涼しく感じます。それどころか、場合によっては寒いくらいに感じることもあるでしょう。しかし、部屋の床・壁・天井などが適温に下がるまでは、輻射熱に関しては「歳入超過」か「収支バランス」なので、暑く感じるわけです。
これが「寒いのに暑い」の正体だと私は睨んでいます。


ちなみに、この「寒いのに暑い」を最も極端に感じるのが、夏の車中です。窓からの直射日光が皮膚をじりじり焼くように暑い一方で、暑いもんだから強めにエアコンを効かせると、寒いくらいになってしまう。でも暑い。実に不快な状態です。

冬は全く逆になります。暖房をつけ、室温が十分に高くなっても、床や壁、天井が暖まるまでは、「大幅な歳出超過」になるでしょうから、何となく寒く感じるはずです。だからと言って設定温度を上げると、暑いくらいになって頭はぽわーんとし、でもやっぱり薄ら寒いという不快な状態になります。(私の自宅が冬にはこの「暑いのに寒い」状態。)

3.まとめ

人間が感じる暑さ寒さに影響するのは、他にも風の強さなど、いくつかの要因があるらしいのですが、今回は個人的に重要度が高いと思っている2つのみを取り上げました。特に2番目の輻射熱の効果が今回のメインテーマです。

世の中にはエアコン嫌いな人が結構居ますが、嫌われる最大の理由が、「輻射熱のバランスが良くないことによる不快感」ではないかと私は考えています。だとすると、エアコンが悪いのではなくて、建物の躯体の温度を適切に保つことを考慮していない建物の構造や空調計画こそが本当の犯人だと考えるべきです。
そう考えれば、24時間空調が(快適性の観点で)非常に合理的であることが良く理解できます。
勿論、それでエネルギーをじゃぶじゃぶ使うようでは困りますが、現在の技術で家をきちんと作れば、特にエネルギー消費が増えない(むしろ減らせる)だけの断熱性・気密性は実現可能なようです。

我慢しないと省エネ出来なかった時代ならともかく、今は省エネと快適性の両立を目指すべき時代ではないかと思います。