自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

一条工務店の「床冷房」-中編-

-前編から続く-

床冷房が空調の方法として成立するかどうか、成立するとして快適かどうかについて考察を続けます。

4.空調として成立するか?

冷たい空気は下に溜まるので、床冷房は冷房として成り立たないのではないか? という突っ込みは正しいかを考察します。
念のために付記すると、床が冷たくなるので「足の裏がひんやりして気持ちいい」という効果は間違いなく得られます。ここで取り上げるのは、「床だけでなく、部屋全体の空調として考えたときに、きちんと部屋全体を冷やす効果が得られるか?」という視点です。

前編で書いたように、冷たい空気は下に溜まりますので、単純に考えると部屋全体を空調するのは難しそうです。それは事実。
一方で、ある条件の下であれば、万能ではないにせよ、そこそこ空調として成立するのではないかと思えます。
その条件とは、建物が十分に高断熱・高気密であること、です。何故この条件が必要なのかというと、この条件であれば、冷房は微弱運転でも足りるからです。

冷房が必要な状況では、以下のような状態が出現しているハズです。
イメージ 1

  • 屋外に接している壁、天井から熱がじわじわ進入してきて、壁際、天井付近の空気を暖める。
  • 床も屋外に接しているが、床冷房によって冷却されているので冷たいまま。
  • 暖められた空気は軽くなって上昇し、天井付近に溜まる。
  • 床冷房で冷やされた空気は、床面付近に留まる。


実際には、窓から輻射熱(赤外線)の形で入ってくる熱もあるでしょうし、内部に居る人間(人体)や家電機器などからの発熱もあるのでもっと複雑ですが、ここでは単純化して上記のように考えます。
このままでは暖気はどんどん上に溜まり、冷気は下に溜まり、いつかは「頭は熱くて足は冷え冷え」になってしまいます。

しかし、以前書いたように、床も壁も天井も、その温度に相当する輻射熱(赤外線)を出しています。上図の状態では壁や天井は多めの輻射熱を出し、床はそれよりも少ない輻射熱を出します。その結果、

  • 壁や天井は自分が出すよりも少ない輻射熱しか受け取れず、徐々に温度が下がっていく。
  • 床は自分が出すよりも多い輻射熱を受け取るが、床冷房によって常に冷やされているので、温度は上がらない。

という状態になります。つまり、壁や天井も際限なく温度が上がることにはならず、それなりに冷やされてバランスするはずです。壁や床の温度があまり上がらなければ、部屋の空気を暖める効果も弱く、深刻なほど「上暖下冷」にはならない気がします。
勿論、「暖かい空気が部屋の天井付近に溜まる」という現象はゼロにはならないでしょう。でも、今の住宅には24時間換気がありますから、部屋の空気はある程度循環し、かき混ぜられます。かき混ぜることで「熱気溜まり」を解消する効果が期待できそうです。

以上の考察は、「そう言う傾向がある」という意味では正しいと思っていますが、「それで十分な効果が得られるか?」については何とも言えないのが正直なところです。
とは言え、1つだけ言えるのは、「上記のメカニズムによって快適な空調状態が維持できるのは、屋外から入ってくる熱が十分に少ない場合である」と言うことです。断熱性・気密性が悪いと屋外から入ってくる熱が多いので、「輻射熱の効果で天井や壁を徐々に冷やす」などというのんびりした効果だけでは、十分な空調にならず、天井付近に熱気溜まりが出来てしまうように思えます。冒頭で床冷房が期待通りに機能する条件として「建物が十分に高断熱・高気密であること」と書いたのはこのためです。

肝心なのは、「どの程度の断熱性・気密性ならば十分と言えるのか」なのですが、残念ながらこれは私の手には負えません。一条工務店は住宅メーカの中でもトップクラスの断熱性・気密性を持っていますから、床冷房でいける可能性があるのではないかと期待が膨らみます。一条工務店がモデルハウスで試験的な運用をしているのも、このあたりを確かめたいからなのではないでしょうか。
ともあれ、床冷房が全館空調の手段として使い物になる可能性はそこそこあると言えそうです。

5.結露は大丈夫か?

「空調として成立するか?」は、たとえ「成立しない」という残念な結果だったとしても、「あくまでも補助的な冷房の位置づけです」と言えば何とかなります。エアコンが必要になりますから、コストパフォーマンスの面では「床冷房は無意味」と言われてしまうでしょうが、使って使えなくはありません。
しかし結露の方は、もしも問題が発生すると「床冷房は無意味」ではなく、「床冷房は有害」になりますから、ずっと深刻です。
実際にどうなりそうかを考えてみます。

(1)定常稼働状態
まず、定常状態を考えます。床冷房により室内が安定的に快適に保たれている状態です。
このときに室温と湿度をどの程度にするかは、好みにも依りますが、温度は25~28℃,湿度は40~60%ではないかと思います。この範囲で一番結露しやすい「28℃/60%」だとしても、これで結露させるためには床面の温度を19℃にまで下げねばなりません。(他の温度・湿度なら、もっと下げないと結露しません。)

一方、床面の温度はどの程度に下げればよいでしょうか?
一条工務店床暖房の実験では、室温を21℃に保つために床面を25℃にしています。これが外気温が何℃のときのデータか分かりませんが、光熱費の算出の実験では外気温0度なので、これも0℃だと仮定します。
当然ですが、室温と外気温の差が大きければ大きいほど、床面温度を高くしないと室温が維持できません。つまり、「外気温と室温の差を22℃に保つために、熱源である床面の温度は室温より4℃高くしないと室温維持が追いつかない」と言うことです。

冷房の時はどうか?
外気温をやや高めの35℃、室温を冒頭の28℃とすると、その差は7℃。となれば、冷熱源である床面の温度は、室温よりも1.3℃低くすれば足りるはずです。つまり26.7℃です。冒頭の条件だと、28度/60%の空気は19℃まで下げないと結露しないので、この条件なら床面で結露は生じません。
もう一つ別の条件で、室温が25℃だったとすると、外気温度の差は10℃。床面は室温より2℃低くする必要があり23℃。25℃/60%の空気は16℃まで下げないと結露しないので、やはり床面で結露は生じません。

と言うわけで、安定して冷房を行っている状態では、床面の結露は生じないと考えて良さそうです。

(2)非定常時
非定常時とは、システムを起動したときや、窓を開けた場合など、条件が急に変化したような場合です。
例えば起動時は、家中に外気と同じ高温・高湿の空気が充満している状態で、床冷房の電源をON!という場合を指します。しかし、基本的にこの手の高断熱・高気密住宅の場合、24時間365日空調するのが基本ですから、そう滅多に「起動する」場面はありません。(1~2週間程度家を空けるだけなら、空調は弱くしたまま稼働させておくのが普通。)
起動時の問題を考えるのはあまり意味がなさそうです。

どちらかというと有りそうなパターンは、「今日はベランダでバーベキューしよう!」てな場合です。この場合、リビングの掃き出し窓を開放し、リビングとベランダをつなげて便利に使う、てなことをしたいところです。
但し、ほどよく冷えた床面に、外気がそのまま流れ込みますから、床面で結露が発生する可能性は大です。

あまりに屋外が暑いときには、そんなことをしようとはさすがに思わないでしょうから、外気は32℃/70%くらいとしておきましょう。一方床面は、先ほども試算した26.7℃、又は23℃とします。
この場合、床面温度が26.7℃ではぎりぎり結露しませんが、23℃だと結露します。外気の湿度が80%だったら、床面温度がどちらであっても結露します。

条件次第では結露するとの結果ですから、「床冷房は却下」となってもおかしくありません。ただ、現実にはさほど大きな問題にならないのではないかという気もします。
例えば先ほどの事例では、外気が32℃/70%ですから、床の温度が26℃を下回ったあたりで結露が始まります。しかし、窓を開放して熱い外気が流れ込んできたとたん床面の温度は上昇を始め、数分後には数℃も上がっていることでしょう。たとえ床面が23℃になるように空調していたとしても、数分後に3℃上昇して26℃になれば、それ以上は結露しません。窓を開けるような場面では、一時的に床冷房を切るか、少なくともリビングへの冷媒の循環を止める(他の部屋の冷房は続ける)ことになるでしょうから、床面温度は容易に上がるはずです。
となると、結露が出るとしても一瞬、それも僅かの量に留まるはずで、結露した数分後にはもう乾いてしまっているくらいなのではないでしょうか。床材が無垢フローリングであれば、床が「濡れる」という程にもならないレベルでしょう。(ちょっと根拠の薄い希望的観測ですが。)

と言うわけで、結論として、非定常時(特に窓を開けたとき)には結露の可能性を完全にゼロには出来ませんが、その問題は「深刻」というレベルにはならずに済む可能性があります。

6.補助空調はゼロには出来ない気がする

以上考察してみたように、「床冷房」は意外にシステムとして成り立つ(使い物になる)様な気がします。
とは言え、補助エアコンをゼロにするのは難しいとは思います。例えば前述の、「ベランダでバーベキューをする」なんて言う場合、バーベキューが終わったからみんな家に入って寛ごう、と思ったときに、リビングの空気を短時間で快適な状態に戻せねばなりません。そう言う場面では、床冷房だけでは、あまりに非力な気がします。
この点は床冷房の弱点の1つでしょう。

もともと一条工務店の床暖房システムには、再熱除湿エアコンが1台付いてきますので、その意味で補助エアコンは有ります。但し標準だと1台だけです。これは使用頻度が高そうなリビング用としたら、それ以外の部屋には補助エアコンが有りません。頻繁に窓を開ける部屋でなければ必要有りませんが、リビング以外にもそう言う部屋があるなら後付けが必要です。これは折角のコストパフォーマンスを下げてしまいます。

欲を言えば、FASの家みたいに、家中の空気を循環させるような仕掛けが有ればいいんですけどね。

-後編に続く-