自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

免震装置の何故

SE構法の記事に、hir*_*9_100さんから免震装置に関するご質問を頂きました。
回答が長くなりそうなので、返信コメントではなく、投稿として考えるところを書いてみます。

なお、以下はあくまでも私の想像に基づくもので、事実とは異なる可能性があることにご注意下さい。

1.ハウスメーカが免震を勧めないのは何故?

いくつか理由を推定してみます。

(1)販売経験が少ない
導入する人が圧倒的に少ないので、営業担当の方も扱った経験がほとんど無いでしょう。当然、どういうものかもあまり理解できていない。そういうものはなかなか自信を持って売りにくいでしょう。
また、導入する人が少ないと言うことは、必要を感じている人が少ない(その価格に見合うほどには、という意味において)と言うことでもあります。そういうものを営業としてお勧めしたとしても、客が満足するとは思いにくく、推奨を躊躇する理由になります。

(2)販売効率(営業の手間)の問題

免震装置は400~500万円くらいするようです。一条工務店だけが例外的に安いですが、それでも300万円近い金額です。
この設備を導入するとその分だけ予算を取られますから、他に回せる資金が少なくなり、トータルでの施主の満足が得られるか分かりません。
で、結局あれこれ検討したあげく、「免震は断念」となるのであれば、営業としては手間ばかりかかって面白くないでしょう。
初めから免震無しに誘導したくなるのは分かるような気がします。

2.ハウスメーカ各社がIAUの装置そのものを採用しなくなったのは何故か?

これはますますよく分かりませんが、同様に推定してみます。

(1)価格
IAU製がどの程度の価格かは知りませんが、ハウスメーカが自前でやった方が安上がりになるかも知れません。
というのも、免震装置はその価格の中で開発コストの占める比率が多いと推定されるからです。ここで言う開発コストとは、実大振動試験などのコストです。こういうコストは免震装置の販売価格に含めて回収しなければなりません。逆に言うと、設備の材料費自体は、そんなに高いわけではないと推定できます。
IAUからの購入価格には、当然ながら開発コストも含まれているはずです。だから材料費に比べればかなり高いはずですし、そうならなければおかしいと言えます。
だとすると、似たようなものを自前で開発して販売した方が安くできるのではないかと考えられます。大手なら開発のための設備や人員をもともと有しているでしょうから、一旦開発しさえすれば、あとは材料費だけです。

もっとも、この説には簡単に反論が可能です。
というのも、上記の考え方が成り立つにはある程度販売数が稼げる必要があるからです。販売数が少ないと、膨大な開発費の元が取れず、「IAUから買った方が安かったんじゃないの?」となってしまうからです。極端な話、1棟しか売れなくても開発費(数億円?)はまるまる必要です。1棟しか売れないなら、IAUに数百万円払って買ってきた方が安く済みます。
現実に免震がほとんど売れていないことを踏まえると、自社開発するのは無駄な努力になってしまっているとしか言えません。
(これが1万棟売れるなら、1棟あたりの開発費は数万円になりますので、「自前開発の方が安い」となるでしょうが。)

ただ、更に良く分からないのは、各社がどこまで純粋に自前開発をしているかです。hir*_*9_100さんのご指摘通り、各社のシステムはIAU方式によく似ています。IAUの最新の方式とは異なる(特にダンパー)とは言え、各社のシステムはほとんど同じに見えますので、もしかしたら独自開発に見せかけて、実はどこかから完成品を買ってきているのかも知れません。(例えば、一世代前のIAUの設備そのものだとか。)
言うほど開発費はかかっていないのかも知れません。

(2)型式認定の問題
一条工務店で免震の話を聞いたときには、型式認定(とか何とか)の話を聞きました。免震で建てる1棟1棟個別に認定を取るのではなく、ある形式・条件に収まる免震住宅を工法として丸ごと認定を取るという、お役所の認可に関わる話です。これを取得していない場合、建てる1棟毎に個別認定が必要になるそうで、手間も費用もかさんでしまうのだとか。
その意味で、仮に免震システムは他社から買ってくるのだとしても、手間や費用を現実的なレベルに抑え込むためには、自社で型式認定を取得する必要があるのかも知れません。で、取得したら最後、おいそれとは工法を変えられなくなるわけです。
もしも各社の(独自っぽい)システムがIAUの旧式のシステム」だという前節の推定が正しければ、この型式認定説も少し信憑性が出てくるかなと思っています。

(3)企業の面子
これは販売プロモーション上の理由で、「自社開発」を謳えれば格好いいからです。他社の技術に依存しなければならないというのは、特に大手のハウスメーカにとってあまり口外したくない事情でしょう。(そんなところで格好つけている場合ではないと個人的には思いますが。)
この目的を満足する場合、本当の意味で自社開発でなくても良いのです。IAUなど、他社から買ってきたシステムに独自の名前を付けて、自社専用・自社開発っぽい雰囲気を醸し出せれば十分です。積極的に自社開発とまでは謳わずとも、「他社から買ってきました」と言わずに済めば、少なくともマイナス点は避けられます。
前節の型式認定の取得のためにはそれなりの手間がかかるでしょうから、その手間をかけたことを持って「独自開発品」と言い張ることは、全くの嘘とは言いがたいものではあります。あくまでもそのハウスメーカが建てる家との組み合わせにおいて型式認定が下りるのでしょうから、その意味ではそのハウスメーカ専用ということになるのですし。

3.一般住宅で免震は今後もあまり展望が開けないのか

以上は推定だらけの理由付けなので、本当のところは分かりません。

ただ、問題の多くは価格に帰着することは明白です。価格があるレベル(俗にマジックプライスなどと呼ばれますが、多くの人がこれなら悪くないと感じる価格のこと)を下回れば、導入する人が増え、更に性能もコストも改善が進むという正のスパイラルに入れます。
今は反対に負のスパイラルに入って安定してしまい、そこから出てこられなくなっている感じです。

では何故マジックプライスの実現がなかなかできないのかというと、免震が持つ本質的な制約が障害になっているからではないかと思えます。それは、建物の周辺に50cm以上の空間を空けねばならないという制約のことです。

免震は「地面が揺れても建物は揺れない」を実現しますので、地面を基準に考えれば建物が動くことになります。このとき、直ぐ近くに塀があれば建物は塀に激突します。そうならないためには、建物の周囲に「動いても大丈夫な空間」を予め確保しておかねばなりません。おおよそ50cmくらいと言われます。実際にはそれでは足りなくて、地震で建物が動いても、建物と塀の間にたまたま立っていた人が挟まれて死ぬことのない様に、50cmに加えて人の生存空間分程度の隙間が必要です。となると1mくらいは開けなければなりません。

さて、建物の周囲に1mの隙間を設けられる敷地がどれくらいあるでしょうか?
特別な狭小土地は言うまでもなく、少なからぬ比率の分譲地がこの条件に抵触するのではないかと思います。私のように、住むなら田舎と決めていれば別ですが、都会やそのベッドタウンは軒並みアウトでしょう。
建築件数の多くを占める都会やそのベッドタウンの案件で使えないとなると、免震の出番は相当に少なくなります。これでは正のスパイラルに持ち込むのは容易ではありません。
免震が一般的になる時代はこの先も来そうにないなぁと、大変残念ながらそんな風に思うこの頃です。