自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

太陽光発電パネルの性能差

ふと思い立って、太陽光発電パネルの性能差を調べてみました。
だからどうという話ではありませんが、折角なので書いておきます。

1.太陽光発電パネルの性能には2つある

太陽光発電パネルの性能には、変換効率と発電量という2つの視点があります。(耐久性なども性能ですが、ここでは割愛します。)

電力の買い取り制度(フィード・イン・タリフ)について以前書きました が、この制度の関係で「太陽光発電はなるべく大容量を設置するのがお得」ということになっています。なので、設置に際して、「我が家の屋根には何kW載せられるか?」が設置する人の関心事になっています。ここで関係するのが変換効率です。なるべく大容量を設置するには、変換効率の高いパネルを使う必要があります。勿論、変換効率の高いパネルは価格も高いので、高けりゃいいってわけにもいきませんが。

ところで、「1kWのパネル同士で比較すれば、どのメーカのパネルでも同じだけ発電するんでしょ。変換効率が違う分、設置面積は違うかも知れないけどさ」と思っている人、居ませんか? 実はこれ、半分は正しいですが、半分は間違いです。ワット数が同じでも、実際の発電量は同じとは限りません。ここで着目するのが発電量です。

2.発電量に影響する要素

カタログスペック的な話をするなら、「1kWのパネル同士なら、どのメーカのパネルでも同じ1kWだけ発電する」は正しいです。「半分は正しい」と言ったのはその意味です。パネルの性能(何ワット発電するか)を測るときの測り方は、公的機関で決められています。そこでは、当てる光の強さや、そのときのパネルの温度などが厳密に決められています。条件を揃えておかないと、公平な比較が出来なくなるからです。
逆に言えば、それらの条件が変わってしまえば、1kWだったはずのパネルが1kWではなくなるということです。これが「半分は間違い」の意味するところです。こういった、「パネルの能力を変えてしまう要素」には以下のようなものがあります。

(1)温度
これが最も大きな要因です。一般に、パネルの温度が上がると発電能力は低下します。カタログに書かれている発電能力は、パネルの温度が25℃のときのものですが、屋根の上に設置されて直射日光に晒されるパネルは、夏場なら70℃くらいになるそうです。当然、顕著に発電能力が低下します。このとき、発電能力がどの程度下がるかは、パネルによって異なります。当然ながら、あまり能力が下がらないパネルの方が、実際の発電量は多くなります。
一般論として、アモルファスシリコン型は熱による能力低下が小さいとされています。多結晶型や単結晶型は低下が大きめ。パナソニックのHITは単結晶とアモルファスの複合なので、その中間くらい、などと言われたりします。
実際には、ここは各社の技術力によって差が出てくるところなので、「単結晶型ならどれも低下の度合いは同じ」とは限りません。
メーカのウェブ・サイトで調べた限りでは、主要メーカの中でこの性能低下が一番小さいのは東芝のバックコンタクト型のパネルです。夏期(6~8月)の性能低下度合いは、他のメーカが軒並み20%低下のところ、僅か9.7%の低下です。低下が小さいと言われるパナソニックのHITパネルも11.6%の低下で踏ん張っています。
太陽光発電の発電量が最も多くなるのは、多くの場合5月ですが、これは「夏になると日射が増える以上に、パネル温度の上昇による性能低下が大きくなるから」です。

ちなみに、東芝のバックコンタクト型パネルは自社生産品ではなく、米サンパワー社製です。(中国のサンテックパワーとは別のメーカです。社名が似ていますが。) サンパワーは、現在世界最高性能の太陽光発電パネルを生産しているメーカです。日本ではパナソニック(元三洋)のHITパネルが高性能で有名ですが、今はサンパワーの方が上です。


(2)天候の影響
土砂降りではどんなパネルもほとんど発電しませんが、薄曇り程度であれば、多少は発電します。このとき、曇るとほとんど発電しなくなるパネルと、曇りでもそこそこ発電するパネルがあります。
この項目については、各社正確なデータを開示しておらず、厳密な比較は出来ません。ただ、一般論として、CIS型(ソーラーフロンティアやホンダソルテックがやっています)は薄曇りでもそこそこ発電すると言われています。

(3)パネルの方式による特殊事情
アモルファスシリコン型のパネルには強い光を当てると発電性能が低下する性質(光劣化)があります。際限なく性能が下がるわけではなく、ある程度下がったら落ち着くので、カタログにはこの下がって落ち着いた後の数値が書いてあります(最大で10%程度低下するようです)。一方で、この光劣化は温度が高くなると回復する(つまりカタログスペックよりも性能が良くなる)性質を持ちます。夏場には実際にそういう状態になるようです。これはカタログスペックよりも多く発電する要素になります。

また、CIS型のパネルには光照射効果と言って、光を当てると発電性能が高くなる性質があります。これも際限なく高くなるのではなく、ある程度高くなったところで落ち着きます(7~8%増えるようです)。アモルファス型の逆ですね。
こちらは、性能が高くなる前の数字がカタログに書いてあるため、使い始めると必ずカタログ性能よりも高い性能を発揮します。当然、カタログ性能よりも多く発電するポテンシャルを持ちます。

(4)パワーコンディショナーの効率
パワーコンディショナーはパネルで発電した直流の電気を、家電製品で使える交流100Vの電気に変換してくれる機器ですが、この変換の際にある程度損失が発生します。良いパワーコンディショナーは、当然この損失が少なくなっています。例えば、効率が95%なら、パネルが発電した電気のうち5%は、パワーコンディショナーで熱になって失われてしまいます。
カタログでは、ほとんどのメーカのパワーコンディショナーが95%の効率になっていますが、三菱だけ97.5%を謳っています。その分だけは三菱が有利になります。三菱ご自慢の階調制御型インバータがこの高効率の理由です。
更に言うと、階調制御型インバータの特徴は、「広い動作範囲で高い効率を維持できる」ことにあります。何のことかというと、95%だの97.5%だのという数字は、いわゆる「カタログスペック」ですが、これは定格いっぱいの電力を変換したときの効率です。4kWのパワーコンディショナーなら、4kWを変換するときに95%(三菱なら97.5%)の性能になると言うことです。逆にと言うと、パネルが2~3kWしか発電していないときの変換効率は、95%とは限らないと言うことです。大抵は定格時よりも効率は悪くなります。どの程度悪化するかは性能が公表されていないので不明ですが、3~5%というところでしょうか。一方、階調制御型インバータは、この低下がかなり小さいのが特徴です。従って、実際の総合効率はカタログ性能以上に開きが大きくなるはずです。

3.実発電量はどうなる?

以上のような事情を踏まえると、パネルの発電性能を「何キロワット」だけで判断してはいけないことが分かります。と言うわけで、各社がウェブ・サイトで公表している「年間発電量の予測値」を集めてみました。この予測(シミュレーション)には、前章で説明したような効率の変動要因が考慮されています。
設置条件は全て下記です。

  • 設置地域は東京の場合。
  • 真南向き。設置角度は30度。(一部、30度でのデータを公表していなかったメーカについては、こちらのデータを元に30度での発電量に換算しました。)
  • 下記は全て設置1kWあたりの年間発電量。

シャープ

バックコンタクト:1084[kWh]
単結晶      :1045[kWh]
多結晶      :1034[kWh]

パナソニック

HIT          :1129[kWh]

三菱

単結晶      :1074[kWh]

東芝

バックコンタクト:1204[kWh]
単結晶      :1088[kWh]

ソーラーフロンティア

CIS          :1463[kWh]

一条夢発電

アモルファス  :1091[kWh]


こうしてみると、全て1kWあたりの数字であるにもかかわらず、かなり大きな差があることが分かります。
性能が最低のシャープ多結晶を基準に考えると、ソーラーフロンティアのCISはその1.41倍も発電します。この差はでかい。

このデータを元に、私は「自分が家を建てるときにはソーラーフロンティア製かな」と思ったりしています。新しい技術であるというのがエンジニア心をくすぐるというのもありますし。(もっとも、肝心の家の建築自体がいつになるか分からない状況ですが。)

最近は設置前に収支シミュレーションをやるのが当たり前のようなので、上記のような話は買う側が意識せずともシミュレーションに反映されているのかも知れません。であれば、こんな小難しい話を読まなくても、最良の選択は簡単にできてしまいますね。

4.ちょっとばかり蛇足
ここからはかなり想像が入った話です。
各社がウェブ・サイトで公表している年間発電量のシミュレーション値ですが、これがどういう位置づけの数字なのかは、各社で差があるような気がしています。どういう位置づけかというのは、ばらつきの話です。

太陽光発電パネルに限りませんが、神ならぬ人間が作るモノは必ずばらつきを持ちます。同じ工場で同じ設備で同じ材料で作ったモノであっても、できあがったモノは完全に同一の性能ではなく、僅かに差を持ちます。勿論、わざとやっているのではなく、どうしてもそうなってしまうだけなのですが。
あなたの家の屋根に載ったパネルは、お隣のパネルよりも、僅かに性能が良いかも知れないし、悪いかも知れない。勿論、決して大きな差ではないはずですが、少しは違う。根拠は薄いですが、工業製品に関わってきた経験から言うと、5~10%くらいは違いがあっても不思議ではありません。
こういうとき、「では発電量のシミュレーションは、ばらついている中のどういう性能のパネルで計算するか?」がここでの論点です。

あるメーカは、「ばらつきの中で、一番悪い性能のパネルで計算しよう。そうすれば、実際のお客さんのところでは、必ずシミュレーションと同じかそれよりも良い結果が出るはずだ。シミュレーションより悪い結果になって、後でクレームが来てはかなわない」と考えるかも知れません。
別のメーカは、「性能見積もりなんだから、あくまでも平均的な性能のパネルでやるべきだ。ばらつきによって、シミュレーションよりも良い発電量になるケースと、悪くなるケースが有り得るが、神様じゃないんだからばらつくのは仕方がない」と考えるかも知れません。
更に別のメーカは、「消費者はカタログ性能で選ぶのだから、なるべく見栄えのする、良い方の数字でシミュレーションしておこう。ばらつきの中には確かにそういう性能のパネルがあるのだから、嘘を言うわけではないし」と考えるかも知れません。
これはメーカのポリシー(社風)に依る話です。前章で挙げた各メーカが、実際にどういう考えでどういう条件のシミュレーションをウェブ・サイトに載せているのかは分かりません。ただ、こういう話は世の中に(あまり知られていませんが)常にあります。

太陽光発電の場合はどうなんだろうなぁと、ちょっと気になります。