自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

二重窓で窓性能の不足を補う-中編-

-前編から続く-

 

4.ハニカムシェードで結露が生じる理由
二重窓が解決策になるかどうかを考える前に、何故ハニカムシェード(類似の断熱ブラインドやカーテンも含む)では結露が生じるのかを考えます。

(1)サッシだけの場合
先ず、サッシだけの場合を考えます。下図は窓の部分の断面図です。横から見た断面と思って下さい。
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寒冷地の冬を想定し、屋外は-10℃、室内は22℃、絶対湿度7.5[g/kg]とします。
絶対湿度7.5[g/kg]とは、「空気1kgの中に、水蒸気が7.5g含まれている」ことを意味します。一般によく使われる相対湿度で言えば、22℃の場合、50%に相当します。
相対湿度は「その空気はどれくらい水蒸気を含む力があるか」を元にした比率の数値で、水蒸気の量が同じでも温度が変われば「水蒸気を含むことが出来る力」が変わるので、相対湿度も変わってしまいます。この後の議論では、比率ではなく水蒸気の量が決定的に重要なので、ここでは絶対湿度で表現します。

高気密高断熱住宅を前提に考えますが、サッシの断熱性能は十分とは言えないとします。また、気密性は十分高く、屋外と室内で空気・水蒸気の出入りは無いものとします。

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室内の空気の内、サッシに接している部分の空気は冷やされます。このとき、意図的に風を送って空気をかき混ぜたりしない限り、窓に接している界面には冷たい空気の層が出来ます。空気は放っておいても、そんな簡単には混ざらない性質があるからです。(かき混ぜれば簡単に混ざりますが。)

この結果、窓の部分は冷たい空気の層とそれより室内側の空気(22℃)の2種類が層を作って存在することになります。(実際には空気の温度は2種類だけ、などという単純なものではなく、冷たい空気層と一括りした中にも複雑な温度の勾配がありますが、ここでは単純化して考えます。)

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冷たい空気は重いので下に流れ、床まで流れ落ちます。これがコールドドラフトです。

冷たい空気が流れ落ちた後には、代わりに室内の22℃の空気が流れ込みます。この暖かい空気はやはり窓で冷やされ、温度が下がって以下同文です。

問題は、このときコールドドラフトとなる空気が何℃まで冷やされるか、です。
これは極めて難しい問題で、簡単には計算できません。と言うか、私は計算方法を知りません。(流体工学って難しいんですよ。と言い訳。)
ただ、正確な数字が必要なわけではないので、ここでは10℃に冷やされるとします。
222℃の空気が流れ込んで、窓で少しずつ冷やされながら下に下がり、窓から離れるときには10℃まで冷やされている、と考えて下さい。
最初に22℃から始まるのがポイントです。

尚、絶対湿度7.5[g/kg]の空気の露点は約9℃なので、ぎりぎり結露は生じません。
ただ、コールドドラフトのせいで足下が寒くなります。なので、ハニカムシェードでも追加したくなります。


(2)ハニカムシェードがある場合
次にハニカムシェードがある場合を考えます。空気が窓で冷やされるところまでは同じですが、その後が違います。
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ハニカムシェードがあるので、サッシとハニカムシェードで挟まれた空間は、擬似的な閉空間になります。ここでは「窓空間」と呼ぶことにします。窓空間と室内との空気の出入りは、ゼロではないですが、ごく僅かです。
従って、冷やされた空気はこの窓空間にどんどん溜まります。

最終的に窓空間は冷たい空気で満たされることになります。

ハニカムシェードが無かった場合は、部屋の22℃の空気がどんどん供給されていて、その結果10℃で釣り合っていた訳です。これに対し、ハニカムシェードがある場合は暖かい空気がほとんど入ってこないのですから、窓空間は当然10℃よりは低い温度まで冷やされることになります。

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勿論、外気温と同じ-10℃まで行き着くわけではありません。空気の出入りが無くても、ハニカムシェードが完全な断熱性を持つわけではない以上、室内の熱も伝わってきます。窓を通じて屋外に逃げていく熱と、ハニカムシェード越しに室内から伝わってくる熱のバランスがとれたところで、窓空間の温度が決まります。
このとき、窓に接する部分の空気は最も冷やされます。その温度を5℃とします。
もともと窓空間にあったのは露点が9℃の空気ですから、5℃だと簡単に結露します。

5℃の空気は5.5[g/kg]の水蒸気しか含むことが出来ませんので、差し引き2[g/kg]の水蒸気が結露して水になります。
そもそも窓空間にはどのくらいの空気があるかというと、例えば掃き出し窓だとして、
2m × 2m × 15cm = 600L
となります。600Lの空気は約780gなので、5℃まで冷やされたときに結露する水蒸気は、
2[g/kg] ×0.78[kg] = 1.56[g]
くらいになります。
これなら結露したところで窓ガラスがうっすら曇る程度で、特に大騒ぎするほどのことはありません。少なくとも窓がびちゃびちゃになる、なんてことは無いはずです。

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ところが、そうは問屋が卸さないのが難しいところです。
ハニカムシェードと壁の間には僅かな隙間があります。この僅かな隙間を通って、水蒸気はどんどん入ってきてしまうのです。空気はほとんど出入りしないのに、水蒸気だけは入ってくるなんておかしいじゃないか、と感じるかも知れません。確かに素人感覚ではそうなんですが、実際には水蒸気だけは入ってきます。
何故かというと、水蒸気の挙動は『水蒸気がどういう分布になっているか』で決まるからです。このとき、水蒸気以外に酸素があろうが窒素があろうが、関係ないのです。
『窓空間に水蒸気が無い(少ない)』と言うことは、そこは『水蒸気真空』とでも言うべき状態になっている訳です。隙間のこちら側(室内)に水蒸気が有り、向こう側(窓空間)が真空ならば、その隙間がほんの僅かであっても、水蒸気は勢いよく窓空間側に吹き出していくのが理解できると思います。
一方、空気(酸素や窒素)にとってみれば、窓空間側にも酸素や窒素は同じだけ存在するので、隙間を介した出入りはさほど生じません。

では水蒸気はどこまで行ったら流入が止まるのかというと、水蒸気の量が同じになるまで(水蒸気にとっての『気圧』が同じになるまで)です。つまり窓空間の水蒸気が7.5[g/kg]になるまではいくらでも入ってくると言うことです。
窓空間に7.5[g/kg]の水蒸気が入ってくると、また結露します。結露するとまた水蒸気が入ってきます。また結露します。要するに水蒸気の流入はいつまで経っても止まらず、結露も止まらないのです。この結果、窓辺はびちゃびちゃになります。
結露が止まるのは、加湿が追いつかなくなって部屋の空気が5.5[g/kg]まで乾燥したときです。22℃の場合、相対湿度で35%くらいです。部屋がそこまで乾燥すれば、部屋と窓空間の両方が5.5[g/kg]
になって安定状態になります。この状態では結露はぎりぎり生じませんので、それ以上水蒸気の移動も生じないわけです。

以上が、ハニカムシェードがあると結露が発生する理由です。ハニカムシェードによって断熱性を高めたからこそ、結露が発生してしまうのです。

逆に、鵜野さんが良く主張している、「結露を避けるためにハニカムシェードの下をわざと10cmくらい開ける必要がある」というのも、上記から理解できます。下を開けると、コールドドラフトが出てきます。出てくると言うことは、入れ替わりに室内の22℃の空気が入っていくわけですから、ハニカムシェードが無い場合に近づきます。なので結露が発生し難くなります。
え? それじゃあハニカムシェードの意味が無い?
まあ、極端に言えばそうなりますが、隙間の大きさを結露が生じないぎりぎりに調整すれば、「無いよりはマシ」の状態を実現することが出来ます。全く無意味というわけではありません。大変勿体ない状態だとは思いますが。

では二重窓の場合はどうなのか? 次はそれを考えます。

-後編に続く-