FASの家のウェブ上モデルハウス見学-中編-
-前編から続く-
FASの家の特長を順に見ていきます。全て、FASの家のウェブ・サイトからの情報です。
1.高断熱、高気密、高熱容量、湿度管理の4拍子が全て揃っている
単に断熱性が高いとか、単に熱容量が大きいという話なら、他にもいくつか優秀なハウスメーカはあります。FASの家の最大の特徴は、快適な温熱環境の構築に必要な4拍子が全て揃っていることにあります。
高断熱性‥‥高い断熱性を確保することで、屋外との熱の出入りを防ぐ。
高気密性‥‥設計通りの断熱性の実現のため施工の品位を確保する。併せて湿度という潜熱の出入りを防ぐ。
高熱容量‥‥大きな熱容量により、多少の熱の出入りでは室温が変化ない様にする。
湿度管理‥‥快適な湿度範囲を保つことで、室温の値以上の快適性を確保する。
発想もなかなか特徴的で、例えば「冬の寒さを防ぐためには断熱よりも気密が重要」と主張します。その根拠として、「ビニールハウスは断熱材がゼロだが冬でも暖かい。これは気密性が保たれているからだ」と言うのです。
この主張を額面通りに受け取ることはできません。ビニールハウスが冬でも暖かいのは、(1)建物全体で最大限の日射エネルギーを取り込むことが出来る構造、(2)地面という巨大な熱容量を持つ蓄熱体に太陽熱を大量に蓄熱できる構造、(3)地面から発した熱や水蒸気を逃がさず適切な温湿度を保てる高い気密性、という複合条件が揃っていることに依るものです。気密性が高いからと言って、無色透明なビニール風船を冬の戸外に宙づりにしていても、決してその中はビニールハウスのように暖かくはならないハズです(実験したことありませんが)。
とは言え、「断熱材ゼロでも暖かくする方法は確かに実在する」とは言えるわけで、表現がやや大げさな点を別にすれば十分に傾聴に値します。
なお、「夏の暑さを防ぐには(気密よりも)断熱が重要」とも主張しており、結局、夏と冬両方の快適性を両立するためには、前述の4つの要素が全て必要と結論づけています。
考え方のもう一つの特徴は、先ず何を置いても湿度管理を重視していることでしょう。断熱よりも気密よりも、先ず湿度管理という優先順位は、他のハウスメーカには見られない姿勢です。気密について、「(熱ではなく)湿度の出入りを防ぐため」だと断言しているほどです。
確かに換気によるQ値悪化の試算では、顕熱によるものが0.43だったのに対し、潜熱による悪化は4.0でした。つまり、温度それ自体の変化よりも、水蒸気の出入りによるものの方が一桁大きく影響するわけです。そう考えれば、水蒸気の制御、即ち湿度の制御が極めて重要というのは、至極当然と言えるでしょう。
最も重要度の高い要素(そして最も難易度の高い要素でもある)に正面から取り組んだことが、高い性能の実現に大いに貢献しているであろうことは容易に想像できます。
2.快適な温熱環境の実現手段
快適な温熱環境の実現のために、以下のような手法を用いています。
(1)断熱と気密の為に、ウレタンパネルによる外貼り断熱と現場発泡型のウレタン系断熱材による充填断熱を併用
なお、家の構造体を室内環境側に置くのは、構造躯体の長寿命化のためです。適切に湿度管理された環境の中に構造躯体を置けば、木材が腐ったりシロアリに食われたりする恐れをほぼ無くせるとのこと。
外貼り断熱を可能な限り徹底するため、土台と基礎の間には隙間を空けてあります。(所々に配置したパッキンにより、土台は基礎から浮いている。) その上で、その隙間にも発泡ウレタンを充填する様になっています。その発泡ウレタンは、そのまま途切れずに基礎の内面全体に吹き付けられており、1Fの床下を完全に室内環境側に置いています。(基礎コンクリート自体は、断熱ラインの外側。)
(2)外壁の中に空調した空気を循環させる
先ず2Fの天井裏(ここも断熱ラインの内側なので室内側)に設置されたエアコンで天井裏を空調します。空調されたその空気は、パイプとファンを使って1Fの床下に送られます。1F床下の空気は外壁の内側に設けられた隙間を通って上昇し、再び2Fの天井裏まで戻っていきます。当然、この空気の経路は全て室内側(断熱ラインの内側)です。
壁の中の隙間を空調済みの空気が通る過程で、石膏ボードなどの内装材を適温にするので、室内は壁からの輻射熱で快適な温熱環境になるという仕掛けです。
また、柱や土台は常に湿度調整された空気に触れている(かつその空気は循環している)ことになり、腐朽の恐れは先ず無いとのこと。
説明動画はこちら。
(3)シリカゲルで調湿する
平均的な40坪程度の建物の場合で、200kgくらいのスカットールが撒いてあるそうです。これで120kg程度の水分を蓄えることが出来るそう。なかなかのものです。
とは言え、それでも日本の夏には調湿能力が十分とは言えないようで、除湿器が別に用意されています。
(4)循環する空気は室内にも導入される
(5)床下には潜熱蓄熱材を配置
断熱ラインの内側の熱容量が大きければ、快適性が増し、太陽光を取り入れることで空調費も抑えられます。
(6)全熱交換型の換気扇を使用
ただ、この換気扇は非常に小型で、熱と湿度の交換効率があまり高くないのではないかと少々不安です。まるまる半畳分のスペースを占有している一条工務店のロスガード(世界最強の熱交換効率を誇る換気システム)でさえも、湿度交換効率は70%ですから。
(7)スカットールが空気中のVOCなどを吸着
吸着していったら、そのうち目一杯まで吸着して、それ以上吸着できなくなりそう。室内にそんなに大量に有機化合物が浮遊しているとは思いませんが、何せ数十年単位で使うものですからね。
まあ、20年後にスカットールを交換すれば万事解決ですけどね。それくらいならメンテナンス費用も大したことはないでしょうし。
(8)窓は樹脂サッシのアルゴンガス封入が標準装備
ここまでやっていながら加湿機能が無いのがちょっと不思議な感じです。スカットールの調湿機能があるとは言え、冬の間の加湿をずっとまかなえるはずがありません。
まあ、加湿器は安価なものがいくらでも世の中にありますから、どうにでもできますけどね。
3.耐震性が高い
そう書いてあるので、章タイトルにそう書きましたが、他と比べて特に地震に強いという印象ではないですね。とは言え、一定レベル以上を確保しているのは間違いなさそうなので、まずまず安心できそうです。
残念なのは、開発元が「何百年に一度しか来ない大地震のために、高価な免震を付けるのは無駄」という考え方であることです。これでは永遠に免震は出来そうにありません。無駄かどうかは施主である私が判断することなんだから、勝手に選択肢を狭めないで下さいな。それに、「だからこそ安価にする努力をすべき」とも言えるのですから。例えば免震が20~30万円で付けられるなら、多くの人が「死ぬまでに役に立つ機会があるかどうか分からないけど、念のために付けとくか」と考えるでしょう。住む人のためになる住宅を標榜するなら、そういう開発だって必要なはずです。
とは言え、免震の開発は実大振動試験1つとっても膨大な費用がかかるため、普通の工務店には無理です。FASの家の加盟店から集めたライセンス費用があれば、原理的にはそういった費用負担の大きい開発も可能なはずですが、もしかしたらライセンス費が安いのかも知れません。それだと十分な開発は出来ないですね。温熱環境を改善するための開発だけなら、そんなに膨大な金額にはならないからいいのでしょうけど。
なお、ウェブ・サイトに書いてある、「接着力の強い発泡ウレタン断熱材で包んでいるので躯体強度が増す」という表現は、私はあんまり信じていません。そりゃあ、強度が増すのは確かでしょうけど、微々たるもんじゃないですか? ホントに胸張って言うほど違うの?
少なくとも「バスケットボールのように、転がしても壊れないのではないかと言われるくらいの強度」という表現は言い過ぎでしょう。そう言うことは、本当に転がしてみてから言って欲しいです。
4.オール電化専用住宅
これは非常に珍しいです。オール電化専用住宅を謳っています。その心は、「非常に気密性が高いので、ガス調理器が酸欠で使えない」とのこと。ホンマかいな?
FASの家のC値は0.5~1.0程度だそうですが、それだと一条工務店と同じくらいです。でも、一条工務店ではガス調理器も使えます。気密性が高いからガス調理器が使えないというのは、ちょっと解せません。
どうも、認識が古いのではないかと思われます。
FAS工法がひとまず完成形になったのは20年以上前(平成元年)のことだそうで、高気密なんて言葉は聞いたこともない時代です。その時代ならともかく、今は吸気口付きのレンジフードがあるそうですから、高気密の家であっても、「レンジフードを回すと室内が負圧になって、それ以上吸わなくなる」なんてことはありません。
それに、たとえ「ガス調理器が使えない」のが事実だとしても、給湯は灯油やガスで構わないはずです。屋外で燃やすんですから。
何もオール電化専用にする必要はないんじゃないかと思います。
まあ、私の場合はもともとオール電化にする予定なので、オール電化専用だったとしても特に障害にはなりませんけど。
-後編に続く-