自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

宣伝しないのは良いことだ!?

住宅業界は、「宣伝・広告は悪」と考える人が作り手側、買い手側の双方に少なからず居ると言う意味で、かなり特異な業界です。私はYahoo!知恵袋をよく見るので、観察対象に偏りがある(Yahoo!知恵袋には工務店至上主義者が多い)のは確かですが、それを割り引いてもその様な考えは業界内で決して珍しくありません。例えば、FASの家の開発元である福地建装の社長さんは、自身のブログで何度もそう言う趣旨のことを書いています。
今回は、そんな奇妙な業界常識について。

1.何故住宅だけ?

そもそもこの珍妙な主張の根拠は、「宣伝・広告の費用が無ければ、その分だけ同じものを安く提供できる」という脳天気なものです。これが事実なら、まことに天下太平です。お日様ぽかぽかいい天気です。
そんな単純なもんじゃないからこそ、(住宅業界以外では)みんな苦労しているのです。

それにしても、大まじめにそんなことを主張する人は、住宅以外の買い物をどうしているのでしょうか?
車を買う場合、「トヨタや日産みたいにCMにカネかけてるメーカの車が買えるか! 俺は光岡しか買わんぞ!」と言ってるんでしょうか? 以前も書きましたが、光岡の車、高いですよ(唯一無二の価値はありますが)。
TVや冷蔵庫なんかの家電はどうしましょう。今時宣伝・広告をしていないとなると、台湾や中国のメーカのものくらいしかありませんが、あれって、宣伝・広告をしていないから安いって訳じゃないんですよね。長くなるので詳細は書きませんが。
そうそう、食料品や日用品は更に厄介です。スーパーのチラシを見たら、「こんなチラシにカネかけなければもっと安く買えるのに!」と文句を言わねばなりません。とは言え、チラシがなければ卵や牛乳の特売日が分かりません。困りました。店に毎日通えばいい? それじゃガソリン代で却って高くつきますよ。そもそもそんなに暇じゃないし。あ、そうか。事前に店の人に教えてもらえばいいんだ! これで解決! と言うわけでスーパーの店員さん、うちのポストに特売日を書いたチラシ入れといてくださいね! あれ?

2.そもそも宣伝・広告にはどのくらいかかっているのか?

そもそも住宅の宣伝・広告費はどの程度のものなのでしょうか? 参考までに積水ハウスの決算書を覗いてみましょう。積水ハウスは戸建て住宅以外に賃貸事業などもやっているので、戸建て住宅部門の売り上げだけを抜粋した数字を拾ってみます。2010年度の決算説明資料からその数字を拾うと、

売上高    : 4,577億円
売上総利益率 : 22.9% (売上総利益 : 1,048億円)
営業利益率  : 10.1% (営業利益  : 462億円)


となっています。
売上総利益」と「営業利益」の差分(上記の例では586億円)を「販売費及び一般管理費」と呼ぶのですが、その中の一部が俗に言う宣伝・広告費になります。つまり12.8%(=586÷4,577)の更に一部が宣伝・広告費です。これだけで、「大手は30%が宣伝・広告費だ」という主張は何の根拠もないデマと分かります。

更にこの12.8%の中には宣伝・広告費以外に、間接部門(総務部や経理部、開発部など)の人件費や、研究開発費、減価償却費なども含まれます。細かく言うと、事務所で使っているボールペンやパソコン、コピー代もです。

残念ながら、戸建て住宅部門だけについて研究開発費などの費用を算出した数字は見つけられませんでしたが、積水ハウス全体としては研究開発費が46億円という数字があります。積水ハウスの中で研究開発費が必要なのは戸建て住宅部門だけでしょうから、この46億円は全額が戸建て住宅部門のものと考えて良いでしょう。
また、戸建て住宅部門の従業員は15,855人、このうち3割が間接部門の人だとして、年収を平均で500万円(もう少し高いかな?)だとすると、238億円が間接部門の人件費です。
おおざっぱに以上を差し引きすると、残る302億円が宣伝・広告費となります。この場合、宣伝・広告費の比率は6.6%ということになります。
とは言え、以上はかなりおおざっぱな計算ですので、誤差は相当あるはずです。減価償却費も差し引いていません。本当の宣伝・広告費の比率は2~3%くらいではないでしょうかね。

3.金額で言うと?

家一軒の金額を建物だけで2,500万円とします。
宣伝・広告費として上記のおおざっぱな計算の6.6%を採用すると、2,500万円の中の宣伝・広告費はざっと165万円です。あるいは3%だとすると、75万円です。

100万円前後も宣伝・広告費に使われているなんて! あの豪華なモデルハウスを建てたりするのに、私の大切なお金がそんなにも使われているなんて! それだけあればあの設備も付けられるし、あんなオプションも付けられるのに!

そこだけ取り出してみれば確かにそうなんですけど‥‥。

例えば車でも同様の計算が可能です。自動車業界はTVCM含めて随分宣伝広告費にお金を使っています。トヨタの車を1台買ったら、その内少なくとも数万円は宣伝広告費でしょう。
でもだからと言って、「無駄な宣伝費用が俺の払う金から出ているとは許せん!」などと怒り出す人は聞いたことがありません。「試乗車なんか用意しなけれゃ、その分コストが下がって、ナビがタダで付けられるはずなのに」などと言い出す人も居ないようです。
何故住宅の場合だけ、おかしな主張をする人がこんなにも多いのでしょうかね?

 

4.宣伝・広告費を使わないとどうなる?

私は先日、FASの家の体験宿泊に行ってきました。FASの家は、宣伝・広告費を(全くではないにせよ)あまり使っていません。宣伝・広告費を使わないとどうなるかの見本と考えて良いでしょう。さて、この方針はユーザの財布に優しいのでしょうか?

先日の体験宿泊それ自体に要した費用は1
人あたり1,000円でした。宿泊時に使ったリネン類のクリーニング代という名目です。しかし、現地の北斗市に出向くまでの旅費(飛行機代とレンタカー代)で15万円くらい使っています。ちっとも財布に優しくありません。
同じ様なメーカーを5~6カ所も体験した日にゃ、100万円が見えてきます。子供が何人か居れば、1回あたり20万円は超えてくるでしょうから、もっと費用がかさみます。

確かにこの出費は住宅メーカに払ったものではありませんが、家を建てるために必要な費用という意味では同じ事です。
逆に言うと、ユーザがこういう出費をしなくてもいいように、住宅メーカはあちこちにモデルハウスを建てていると考えることが出来ます。航空会社やレンタカー屋に払うか、それとも住宅メーカに(建築費用の一部として)払うか、結局、ユーザの財布からお金が出ていくという意味では、どちらも同じです。
どうせ出費が同じなら、私は近場で済むのがいいです。時間を節約できますので。

5.だからこそ「地元の工務店」がいいのか?
地元の工務店なら飛行機代もレンタカー代も要りません。無駄(?)なモデルハウスも無いので建築費用も安く済みそうです。
「そらみろ。だから地元の工務店がいいんだよ」でしょうか?
勿論、それで納得する人にとやかく言うつもりはありません。

ただ、何も見ないで、体験しないで、数千万円の出費を決断していいの? という疑問は残ります。勿論、私は御免被ります。

ネット上の情報を見る限り、住宅で失敗する人は少なからず居るように見受けられます。他のものと違って金額が金額なので、本来なら絶対に失敗してはならない買い物のハズです。家電製品の購入で失敗するのとは訳が違います。
それは、本来なら必要なハズの費用をケチり、見ることも体験することもせずに「同じものなら安い方が良い」で先に進んでしまうのが失敗の一因ではないかと私には思えます。『実は同じものではない』ことに気づけないまま。(勿論、施主に全責任があるわけではなく、主たる責任は供給者側にあると私は考えています。ただ、「買う側が要求しないから供給側がサボっている」という側面は間違いなくあるわけで、施主側の責任もゼロとは言えないと思うわけです。)

そうは言っても、「大手メーカなら安心」とは限らないのがこの業界の困ったところです。
以前も書いた通り、私は大手メーカの努力に一定の価値を認めています。しかし、大手メーカでも建築にまつわるトラブルは皆無ではないようです。つまり、まだまだその様な努力は不足していると言うことです。
6.もっともっと「宣伝・広告」が必要だ

この手のトラブルを無くすには、業界全体としていくつかの努力が必要です。

1つは、住宅の基本的な機能・性能をもっと底上げすることです。
これはより多くの研究・開発が必要なことを意味しますが、この点は本稿の主題ではないので詳細は省略します。(別の回に書きたいと思っています。)

2つめは、施主に十分な情報提供をすることです。
住宅を建てるにあたって注意すべき事は山ほどありますが、ほとんどが「一見さん」である施主にとって、それら全てに自分から目配りすることは不可能です。だからこそメーカ側が「こういう点は要注意ですよ」とか、「A案にはこういう良い点と悪い点があり、B案はその逆です。重要だからよく考えてどちらにするか決めて下さい」などの情報提供をせねばなりません。販促ビデオや小冊子の作成も、その様な意味合いで欠かせない情報提供の手段です。
勿論、体験宿泊も重要な情報提供の場になるはずです。
こういう活動のための費用は、つまるところ「宣伝・広告費」に該当します。勿論、単にその金額を増やせばよいと言うものではありませんが、「宣伝・広告は悪」と考える業界慣習が、施主のリスクを押し上げていることだけは確かだと思います。

とは言え、ある程度の宣伝・広告費を使っている大手でも、その使い方は効果的とは思えません。いえ、「顧客を獲得する」のが企業にとっての宣伝・広告の直接的な目的ですから、その意味では十分に効果が出ているのかも知れません。ただ、前述の「顧客への十分な情報提供」という意味では不十分と思えます。
例えばモデルハウス。必要なものだと思います。でも折角建てるのに、単に「観るため」だけの施設ではなく、何故体験宿泊が出来る施設として活用しないのでしょうか?(快適性がさほどでもないのがバレてしまうから?) 間取りだって、あんな現実離れしたものではなく、実生活をイメージできるものにすべきです。
他にもいろいろと改善の余地はあるでしょう。

そう言う意味で、大手も小規模工務店も、もっともっと「施主のためになる宣伝・広告」に力を入れて欲しいと思います。
少なくとも、「宣伝しないのは良いことだ」などという単純・お気楽な発想は、施主と作り手、どちらのためにもなりません。