自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

職人に雑用をさせるな

大手住宅メーカと小規模工務店のコスト構造の違いに、間接部門の人員があります。
前回積水ハウスの間接部門の人員は3割くらい、などという仮定の下で宣伝・広告費を試算しましたが、この間接部門の人件費も「大手は無駄に値段が高い」と主張されるときの根拠になっています。「家を建てるのに関係ない人の給料まで家の値段に含まれている」とか何とか。
今回はそれにまつわる話。

 

1.間接部門とは?

間接部門とは、総務部や経理部、あるいは資材部など、生産活動(=家を建てる行為そのもの)には直接関わらない部門のことです。勿論、それらの部門も企業活動の一端を担っているのですから、間接的には関わっているわけで、だから間接部門と呼ばれます。つまり、「家を建てるのに関係ない人」ではありません。「間接的ではあるけれど、関係する人」です。
これら間接部門の人の給料も、当然ながら施主が払う建築費用でまかなわれています。(企業が支出するお金は全て、もとを正せば客が支払う代金です。) その意味で、「それらの人の給料も家の値段に含まれている」のは事実です。

 

2.小規模工務店に間接部門の人は居ないのか?

大手住宅メーカであれば必ず複数の間接部門があり、そこには専門の人が配置されています。前回のおおざっぱな試算でも分かりますが、間接部門の人件費は決して無視できない規模の金額になります。
これに対し、小規模工務店であれば(規模にもよるでしょうが)「総務部」や「経理部」という名称の部門は持っていないことが多いでしょう。居るとしてもせいぜい総務兼経理兼資材の事務担当の方が1人、てなところでしょうか(良く知りませんけど)。

つまり、間接部門の人は(ゼロではないかも知れないが)大手に比べてかなり少ないと言えそうです。
「ほらみろ。大手は無駄に値段が高いんだ」という声が聞こえてきそうです。

 

3.間接部門がやるはずの仕事はどこに行った?

ここで忘れてはならないのは、大手住宅メーカだろうが小規模工務店だろうが、必要な仕事は必要だ、ということです。
例えば、従業員の勤務管理(残業時間や休日の管理)、資材の発注処理、仕入れ先への支払い処理、などなど。こういう仕事は、いくら会社が小規模であっても存在します。「総務部」などの部門を無くしたからと言って、そこでやるべき仕事まで無くなるわけではないのです。

では、それらの仕事は一体何処に行ったのかというと、みんなで手分けしてやっているんですね。例えば、大工仕事に必要な材料は大工さんが発注をしている、などです。
確かにそうすれば、専門の担当者が要らなくなりますから、従業員数は減らせますね。人件費も抑えられそうです。
でもそれで万々歳かというと、話はそんなに単純ではありません。

4.大工さんにとって「間接業務」は雑用に過ぎない

大手メーカで間接部門が行っている「間接業務」は、家を建てるという行為から観れば裏方の仕事です。少なくとも大工さんから観れば、それらの業務は間違いなく「雑用」でしょう。(何が「雑用」かは立場によって変わりますが。)

ここで忘れてはならないのは、大手メーカだろうが小規模工務店だろうが、1日は24時間しか無く、労働時間は(残業を別にすれば)1日あたり8時間しか無いということです。
なので、大工さんに「雑用」をやらせた分だけ、本来の業務(大工仕事)をやれる時間は少なくなってしまうのです。

大工さんは特殊技能を持つが故に
工務店にとっては非常に貴重な存在であるハズです。
なのに、なのに、それなのに、その貴重な人の貴重な時間を「雑用」に使わせて、人件費が減ったと言って喜んでいる場合じゃないだろうと思うのです。
まあ、実際の工務店の方がこんな脳天気な考え方をしているはずはありませんが、よく考えもせずに「大手は無駄に価格が高い」と主張する人の中には、こういう考え方の人が多いように見受けられます。

大工さんに雑用をさせなければ、もっと工期が短くできて、もっと多くの家を建てられることになります。雑用担当者の分だけ見かけの人件費が増えたとしても、建てられる棟数が増えれば売り上げが増えるので、差し引きはプラスになる可能性が大いにあります。
大手住宅メーカでは、そう言う視点で「雑用」専門の間接部門要員を配置しているのです。(専門であれば、業務への習熟度も高まり、効率も良くなりますし。)

5.職人に雑用をさせるな

以上のような考え方で眺めてみると、間接部門の人件費を理由に、「大手は不当に価格が高い」と主張するのは無理があると分かります。
小規模工務店であっても、まともなところなら可能な限り大工さんに「雑用」をさせないように、事務員を配置しているはずですし、そうでなければむしろ大手よりも(その部分に関しては)高コストになっていると考えられます。

勿論、実際の業務分担はその企業毎の事情に合わせていろいろと工夫した結果としてのものでしょうから、それ自体に文句を付けたりするのは適当ではありません。
ただ、「間接部門が無いから小規模工務店は低コスト」という単純な発想は、かなり問題の本質を外していると言わざるを得ないでしょう。

実際のところ、住宅業界に限らず大手メーカには「給料泥棒」と言いたくなるような人が紛れているのは事実です。そう言う人を指して「ああいう人が居るから高コストなんだ」と言われると、反論が難しいのが正直なところです。とは言え、その手の人はさすがにごくごく例外的な存在に過ぎないのもまた事実です。
僅かな例外的な人を取り上げて、それがコストに大きく影響しているかのように言うのは、やはり適切とは言い難いので、今回の話では取り上げていません。