自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

住宅は「工業製品」であるべき-後編-

-中編から続く-

5.法隆寺に住む訳じゃない

ネット上では時々こんな意見を目にします。

  • 法隆寺は1,300年もの間長持ちしている木造建築だ。
  • 木という素材にはそれだけの潜在能力がある。
  • その潜在能力を引き出すことが出来る優れた職人さんの存在も必要だ。
  • そうやって作られた建築物の価値に比べれば、大手メーカの作る住宅は所詮工業製品に過ぎず、全く価値がない。

良くあるタイプの論理の飛躍です。最後の項目を除けば言っていることに間違いはありませんが、だからと言って最終項の結論に結びつけるのはぶっ飛びすぎです。

この手の主張をする人に私が訊いてみたいのは、お前は法隆寺に住みたいのか?という質問です。

法隆寺が素晴らしい建築物であることは、議論するまでもありません。国宝に指定されているのは伊達ではありません。
しかし、自分が住むための家を建てるという場面においては、「だから何?」です法隆寺が1,300年だろうが、エジプトのピラミッドが4,000年だろうが、何の関係もありません。だって、どちらも住宅じゃないんだもん。法隆寺に住みたいという人なら話は別でしょうけどね。私はまっぴらです。
だいたい、私は自分の建てる家を1,300年も長持ちさせたいとは全然思いません。確かに日本の住宅の平均寿命30年は短すぎると思いますが、だからって1,300年なんて、何の参考にもなりませんがな。

6.法隆寺は「結果的に」1,300年持った

これはある雑誌記事で読んだ、建築の専門家の話です。どの雑誌で、専門家が誰だったかは忘れてしまいました。
その人曰く、

  • 法隆寺は「結果的に」1,300年持った建築物である。
  • その当時、様々な寺院が建造されたが、多くは地震や風雪による劣化で崩壊していった。
  • 「結果的に」現在まで壊れずに残ったのが法隆寺である。

誤解を恐れずに言えば、法隆寺が1,300年持ったのは、「たまたま」だという主張です。様々なタイプの、多くの寺院を建立してみたところ、「たまたま」法隆寺地震に強く、風雪による劣化も少ない形式で作られていた、という訳です。

これは非常に説得力のある説です。当時、「こうすれば地震に強く、風雪による傷みも少ない」という工法が分かっていたのなら、法隆寺だけでなく、もっと多くの寺院が現在まで残っていてもおかしくありません。しかし法隆寺以外残っていないと言うことは、「いろいろ試してみたけど、結局これが一番良かったね」という偶然の結果として法隆寺が生き残ったのだと解釈するのが自然です。
(焼失の場合は、建物自体の性能は法隆寺レベルだったという可能性が否定できませんけど。)

勿論、たとえ偶然の産物だったとしても、法隆寺が素晴らしい建築物であることには変わりありません。生い立ちがどうだろうと、法隆寺の価値には無関係です。
ただ、住宅を考えるときの手本にして良いかどうかと言う視点で見た場合には、これは重大な問題をはらんでいます。

7.住宅は工業製品であるべき

私は自分が住む住宅を建てようとしています。そんなとき、「運が良ければ1,300年も長持ちするけど、もしかしたら数年か数十年で崩れちゃうかも知れない工法があるよ」という申し入れがあったとしたら、私なら迷わず断ります。検討の余地は一切ありません。

住宅に必要な「長持ち」とは、「運が良ければ1,300年」ではなく、「確実な100年」です。金額的に絶対に失敗できない買い物なのに、そんなばくちは打てません。というか、1,300年なんてそもそも要らないし。

ここで必要とされるのは、「工業製品としての住宅」です。
前回書いた通り、工業製品は「誰でも同じものが作れること」を目指しています。ここで言う「同じもの」とは、当然、「耐久性も同じ」ということです。その為に、

  • こういう材料を使って、
  • こういう風に作れば、
  • これだけの耐久性が実現できる。

という関係が明らかになっている必要がありますし、実際、工業製品ではその為に様々な努力をしています。そこに時間もコストもかけています。(住宅業界では「無駄なコスト」と言われがちな行為ですが。)
同じ事を住宅に対して行えば、「確実に100年持つ」を実現することが出来ます。ほとんどの人が必要としている住宅とは、こういうものでしょう。

特殊な目的のための文化財ではなく、住宅というジャンルで考える限り、工業製品であるべきかどうかの問には、明確に答えが出ていると私は考えます。
勿論、「当社の提供する住宅は工業製品などではありません」と主張するメーカ(又は工務店)がいたとして、彼らが「イチかバチかの住宅を作っている」という訳ではないでしょう。彼らとて「確実に100年持つ」を目指して家造りをしているはずです。その意味で、工業製品と目指すところは同じです。にも関わらず「工業製品ではない」と主張するのは、単に「工業製品とはどんなものか」を理解しておらず、無意味に工業製品を見下しているからに過ぎません。

工業製品とは何かを正しく理解し、その理念を実現するための方法論を理解し、それを住宅に適用するのが当たり前の世の中になったとき、「普通の人が住宅を安心して建てられる世の中」に大きく一歩近づいたと言えるでしょう。
早いところ、そんな世の中になって欲しいものです。

-おまけに続く-