自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

ヘーベルハウスの「性能体験見学会」-中編-

-前編から続く-

3.断熱性能

断熱性能を体験させてくれる設備は環境試験室です。これは一般的に恒温チャンバーと呼ばれるもので、言ってみれば巨大な冷蔵庫のようなものです。冷蔵庫は冷やすことしかできませんが、恒温チャンバーは冷やすことも熱することも出来、しかも闇雲に冷やしたり暖めたりするのではなく、ある狙った温度にピタリと制御できるような仕掛けを持っているのです。
この恒温チャンバーの中で、「2月の冷え込む外気」や「8月の灼熱の真夏日」を再現し、その環境に置かれた住宅では室内環境がどうなるか? てなことを評価するわけです。
それにしてもこれはでかいです。当たり前ですが、一軒家を中に入れられる冷蔵庫(温蔵庫)ですから巨大です。しかも
中に建っているヘーベルハウスは3階建てです。チャンバーの室内高は10m以上あることになります。広さは(高さに比べれば)控えめで、それでも10m四方はあるでしょうか。10×10×10mの冷蔵庫(温蔵庫)というわけです。
恒温チャンバーは、家庭用冷蔵庫くらいの大きさのものでも数百万円します。容積でその1,000倍の規模のこのチャンバーは、確実に億単位の金額でしょう。大手メーカでなければ持つことが出来ない設備ですね。導入時の億単位の出費だけでなく、この設備を維持・運用するためにも、毎月数百万円の費用がかかっていることでしょう。設備だけでは研究成果は出ませんから、この設備を使っていろいろと研究活動を行う研究者の皆さんの人件費も必要で、もろもろ合算すると、それはもうもの凄い費用がかかっていることになるわけです。

余談ですが、世間には、「大手ハウスメーカはTVCMなどの広告費が膨大にかかっているから高い。そんなのに金を払うのは馬鹿馬鹿しい」という意見があるようです。しかしこれが実状を正確に理解した意見と言えるのか、私は疑問に思っています。
例えば、積水ハウスの決算書を御覧下さい。(旭化成ホームズの決算情報が見つけられなかったので、代わりに大手代表として登場してもらいました。) これによると、2010
年度1月期の決算(2009年2月~2010年1月の1年間)は下記の通りです。

売上高        : 約1兆3,500億円
販売費及び一般管理費 :   約1,950億円  ←宣伝広告費用はこの中の一部

つまり、売上高の14.4%が「販売費及び一般管理費」という訳です。ネット上には「大手は販売価格の30%が広告費」なんていう極端な主張をする人も居るようですが、それが何の根拠もないデタラメだと言うことは決算報告の数字から簡単に分かります。

 

しかもこの「販売費及び一般管理費」の中には、研究開発費も含まれているのです。つまり、ここで紹介している巨大な恒温チャンバーを購入する費用や、それを使ってより良い住宅を開発するための研究資金も、14.4%の中に含まれているのです。残念ながら、14.4%のどのくらいが研究開発費なのかは決算報告からは分かりません。株主になって株主総会で質問すれば教えてくれるかも知れません。ただ、ごく一般的な話をすると、日本の大手電機メーカの場合で5~6%くらい。研究開発命!でやっている特殊な企業だと、10%近い数字になることもあるようです。住宅メーカの場合は電機メーカよりも低めでしょうかね。仮に4~5%程度とするなら、販売費は10%前後と言うことになります。
10%を多いと思うかどうかは個々人の価値観になりますが、気をつけねばならないのは、10%の中にはモデルハウスを建設・維持・運営する費用や、営業担当者の給料も含まれるということです。
「何も見なくても家を買える」という人は別ですが、モデルハウスくらいは見てから決めたいというのであれば、その費用は認めてあげないといけませんし、営業担当者の給料を無くせという人はさすがに居ないでしょう。良くやり玉に挙げられるTVCMの広告料は、せいぜい1~2%ではないでしょうか。一般に信じられているほど広告費の占める割合は高くないのです。

寄り道が長くなってしまいました。
要するに、大手が大手である大きな理由の1つが、この手の研究開発設備だと言うことです。ですから、それだけのコストをかけた甲斐があると実感できるだけの良い住宅を造って、その分を価格に反映しなければ、企業として成り立ちません。(
ちなみに、先述の積水ハウスは390億円近い赤字決算になっています。
さて、ヘーベルハウスはどうでしょうか? 恒温チャンバーでの説明を一通り聞いた後で、研究員の方にヘーベルハウスのQ値を質問したところ、2.68という答でした。次世代省エネ基準をギリギリクリアできる程度で寸止めしているという感じです。ネットで見つけた2.7という数値は正しかったようです。
うーん、研究設備は大したものなのに、
肝心の断熱性能は大したことがありません。これでは研究開発費用を価格に上乗せできず、元が取れないんじゃないでしょうか?
1つだけヘーベルハウスをフォローしておくと、Q値=2.68の算出根拠になっているのは某準公的機関が指定したプラン(間取り)で、延床面積約45坪、2階建て、15m×5.5mというかなり細長い形状のものだそうです。
つまり床面積の割に壁が多くて、断熱的には(Q値的には)不利なプランなのです。とは言え、そういった条件の違いを踏まえても一条工務店のQ値=1.16に比べると相当劣るのは確定でしょうね。うーん、フォローにならなかった。
全てのハウスメーカが同じプランで算出していれば同条件の比較が出来るんですが、そう言うわけではないようで、困ったものです。

4.長寿命

まさにヘーベルハウスが力を入れている「ロングライフ」に関する展示です。
見所はいくつかありますが、ヘーベル板専用の外壁コーキング剤、外壁塗装の「ロングライフコート」、外壁用光触媒コーティング「デュラ光」あたりが要注目です。これら3つとも
耐久性30年を謳っています。
以前、一条工務店の設計士の方が、30年耐久を謳うヘーベルハウスのコーキングについて、「無理無理、30年なんて絶対持ちませんよ」と言っていましたが、果たしてどちらが正しいのでしょうか?
私の出した結論は、恐らく30年持つだろう
です。
経験豊富なはずの一条工務店の設計士の見解を信じないのは何故か? それは、この設計士さんはヘーベルハウス用のコーキング剤を使ったことも無ければ、実験室で評価したことすら無いからです(このコーキング材は、ヘーベルハウス向けにしか出荷していないそうです。つまり、他のハウスメーカはこのコーキング材の善し悪しを知ることが出来ません)。
見たことも触ったこともないくせに、何故そんなに簡単に「持つわけない」と言い切れるのか、私には理解できません。経験が邪魔をして判断を鈍らせた結果としての思い込みではないでしょうか。専門家の思い込みなら無視すべきではない、と思われるでしょうか? 残念ながらここで必要なのは、建築の専門知識ではなく、材料化学の専門知識なのです。コーキング材が、温度や湿度、太陽光といった要因でどの様に劣化していくか、それに耐えるためには、材料の成分はどの様な分子構造を持っていなければならないか、そういったことを研究した結果が、ヘーベルハウスのコーキング剤には盛り込まれているのです。
そうは言っても、他社では出来ないのにヘーベルハウスにだけ出来るのは何故なのか? 理由の1つは、ヘーベルハウス旭化成グループという材料化学の専門集団によって作られていることにあります。この専門集団が、ヘーベルハウスのロングライフという性能のためだけに専用の材料を開発しています。材料メーカから材料を買ってくるだけのハウスメーカとは、ここが決定的に異なります。まあ、その分コストは高いと思いますが。
もう一つの理由は、ヘーベルハウス専用なので、他の材料との組み合わせまで含めて、最適な材料設計が出来ることにあります。今回聞いた話では、こんな事例がありました。
外壁塗装のロングライフコートは三層構造になっており、下塗りだけ工場塗装、中塗りと上塗りは現場塗装になっています。当然、コーキング剤を充填した後で中塗りを行うことになるのですが、ここで、
ングライフコートに含まれる成分が、塗った後にコーキング剤に染み込んでいき、コーキング剤の柔軟性(伸び易くなる)を高め、寿命を延ばす作用をもたらすのだそうです。当然ながら、この効果はそのコーキング剤とその塗装剤の組み合わせでしか効果を発揮しません。
一般のコーキング剤は、どんな塗装材料と組み合わさってもそれなりの性能を発揮するように作らねばなりません。
組み合わさる相手による影響を受けにくい性質の材料にすることを重視すると、当然、その分だけ耐久性能を突き詰めることが出来なくなります。しかし、ヘーベルハウスのコーキング剤なら、「この塗装材料としか組み合わせてはいけません。でもその組み合わせを守れば、素晴らしい耐久性を発揮します」という材料開発が可能になるのです。これはヘーベルハウスにしか出来ない芸当でしょう。

ロングライフコート自体も、徹底的な耐久試験を経た上で30年耐久を謳っています。詳しい試験条件は聞けませんでしたが、高温、低温を繰り返し、紫外線を照射し、といったことを何度も繰り返した上で、これだけ耐えれば30年と言える、というレベルであることが確認されているそうです。欲を言うと加速係数など聞きたいところですが、まあ、いいです。
ちなみに30年耐久とは、30年後には表面に微少なひび割れが発生し始めている、という程度の性能だそうです。塗装の下地までダメージが進行していると、その上から再塗装しても、下の古い塗装から剥がれてしまう恐れがあるため、ダメージが表層に留まっている段階で再塗装をするというのが、メンテナンスの基本的考え方なのだそうです。
しっかりした方針だと思います。

デュラ光はロングライフコートの上に施す光触媒コーティングです。他社の光触媒コーティングと違うのは、光触媒ではない親水性物質との複合材料になっていること。つまり、光の当たりにくい軒下などでも、親水性を発揮することが出来ます。
「全部親水性物質にすればいいんじゃないの?」と突っ込んでみたら、「光触媒には付着した汚れを分解する作用がありますが、親水性物質にはそれがありません。なので、光触媒も必要なのです。その両方を適切な比率でブレンドしたのがデュラ光の特長です」とのこと。なるほど。
デュラ光のもう一つ重要な特長は、現場施工が出来ることです。これは極めて重要な事なのに、他社でこれに配慮しているものは今のところ存在しないようです。現場施工できない光触媒コートにどれほどの価値があるのか、私には今ひとつ理解できません。
勿論、単に塗膜の品質だけ比較するなら、工場塗装の方が良いに決まっているんですが、何せ住宅の外壁です。工場塗装で100年持つならともかく、長くても10~20年しか持たないとなると、
それ以降は汚くなっても我慢我慢、ですか? 最初の10年だけきれいでもねぇ、と思うのは私だけでしょうか?
それに比べれば、「再施工すれば、光触媒効果で、いつまでもきれいな外壁を維持します」というのは魅力的です。勿論、費用の問題はありますが、最初から選択の余地が無いのは論外ではないでしょうか。勿論、他社も現場施工をやらないわけではなく、やれないだけなんでしょうけどね。ここも、さすが旭化成グループ、と言うべき点なのでしょう。

-後編に続く-