自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

免震工法の比較

費用を別にすれば、地震対策の観点では免震工法がベストの選択と言えますが、免震工法の中にも何種類かあるので、それぞれの利害得失を考察します。

1.比較時の着目点

そもそも免震装置が備えているべき機能は以下の3つなので、この3点に着目して比較していけばいいでしょう。

  1. 建物を地面に対して横滑りさせる機能(建物の重さを支えつつ)。
  2. 建物を本来の位置に戻す機能。
  3. 振動エネルギーを減衰させる機能。

「免震」の機能から言うと、1.が最も重要な気がしますが、実は、免震装置の性質を最も大きく特長づけるのは2.です。その次が3.で、最後に1.です。
2.は建物の位置を元に戻すのですから、バネのようなもので「復元力」を発揮させるのが手っ取り早い方法です。ところが、この「復元力」こそが、前回説明した共振という現象に大きく関わっているのです。
地震対策は共振周波数の制御といっても過言ではないくらいですから、ここにこそ最大のスポットライトを当てねばなりません。
3.は制震の考えにも通じますが、振動エネルギーが減衰すれば共振が起き難くなります。なので共振現象の制御としてはこの要素も重要と言えます。
1.はそれらに比べると免震機能に及ぼす影響はかなり小さいと言っていいでしょう。しっかり建物の重さを支えないと建物が傾いたりしますから、どうでもいいわけではないのですが、それは免震以前の話をしているのであって、免震装置の性質という意味での話とは異なります。なので、以下ではさらっと触れるだけにします。

2.復元力と共振と振動エネルギーの減衰

いきなりですが、復元力がなければ共振は起きません。復元力の存在こそが、共振を生み出していると言って良いでしょう。
前回の竹ひごの振り子で言うと、しなった竹ひごが「まっすぐに戻ろうとする復元力」があるからこそ、共振現象が発生するのです。竹ひごの代わりに曲がったら曲がりっぱなしで戻らない針金を使ったら、ゆっくり揺すろうが速く揺すろうが、決して共振しません。
バネのように元に戻ろうとする性質(復元力)があること、更に、バネの共振周波数に近いリズムで外部から力が加わること、この2つが同時に存在して初めて共振現象が発生します。先ほど「2.が一番重要」と描いたのはこの為です。
共振が発生する原因にもう一つ条件を付け加えるなら、バネに蓄えられた振動のエネルギーを減衰させるような要因がないこと、ですね。例えば、竹ひご振り子を水中で揺らすと、いくら共振周波数で揺らしても、共振は起こりません。水の抵抗で振動のエネルギーが急速に失われていくので、共振しているヒマ(?)がないからです。

そんなわけで、以下では復元力と、振動エネルギーの減衰方法に着目して考察します。

3.復元力の違い

免震装置は復元力の強さで大まかに3種類に分類できます。

(1)強い復元力の免震装置

一条工務店のハイブリッド免震工法や、THKの免震システムがこれに該当します。積層ゴムというバネを使って、建物を元の位置に戻す力を発揮させます。
本来の位置に戻る力が強いのですから、強い風が吹いても建物がずれる心配はまずありません。仮にずれるとしても、ずれるほどに元の位置に戻る力が強くなりますから(バネなので)、大した問題にはなりません。
但し、強い復元力故に、共振が発生する懸念が最も高いのがこのタイプです。共振を防ぐ為の方法が何らか不可欠です。
 

(2)ごく弱い復元力の免震装置

積水ハウスダイワハウスなど大手ハウスメーカの免震はこのタイプが多いです。IAUというメーカ(2020/04/26注:メーカが倒産したのかウェブ・サイトが見当たりません)のモノがベースになっているようですが、このメーカのウェブ・サイトは他に類が無いほど見づらいので、三井ホームの説明図(2020/04/26注:詳細説明ページが消滅していたので簡易説明ページにリンク先を変更)を見ましょう。
ごく浅いすり鉢状の台の上に、ボールベアリングを介して建物が乗っています。重力ですり鉢の中心に戻るのが復元力なので、ごく弱い復元力しか発生しません。なので、共振が発生する懸念はほぼありません。
但し、元の位置に戻る力が弱いと言うことは、強風時に建物が動いてしまう可能性があることも意味します。ベアリングで軽く動くようにしてあるので尚更です。家を動かせるだけの風が吹いたら、どこまでも動いてしまいます。なので、このタイプの免震装置では、強風時に建物を固定する仕掛けを持っています。当然、固定している間は免震が機能しません。台風と地震が同時に来たらアウトですが、まあ、その確率は非常に小さいでしょう。
 

(3)復元力が無い免震装置

性質としては(2)に似ていますが、元の位置に戻す力が全くないタイプです。具体的にはエア免震が該当します。
勿論、地震後にずれたままではマズイので、元の位置に戻す仕掛けはあるのですが、地震で揺れている最中に限れば、復元力はゼロです。逆に、平常時は地面に接しているので、基礎との強い摩擦力により風などで動くことはありません。
元の位置に戻す機能を免震動作とは完全に分離することで、共振の問題と強風対策の両立を図った方法と捉えることが可能です。


一番インテリジェントな方法は(3)ですね。平常時と地震時で装置の状態を切り替えることにより、相反する2つの課題を両立しています。例えば(2)の方式の装置であっても、「普段は建物を固定しておいて、地震を感知したら自動的にロックを解除する」という仕掛けにすれば、(3)とほぼ同等になります。
懸念は「自動的に」という仕掛けがどの程度信頼できるかでしょう。もともと何年かに一度しか発生しない「万が一」に備えるための装置ですから、その数少ない「その時」に「誤動作しました」では話になりません。センサーを含む電気的な仕掛けは、そこまでの信頼感を勝ち得ていないのが、世間の平均的な評価ではないかと思います。
もっとも、世間の評価が妥当かというとそれはまた別の話。例えば自動車のエンジン制御用コンピュータは、免震住宅とは比較にならないほどたくさんの台数が、比較にならないほど過酷なエンジンルーム内という環境で、比較にならないほど長時間稼働しています。それでも、それが原因の暴走事故などはとんと聞きません。(昔は多少あったようですが。) 勿論、人間の作るモノに絶対は無いとは言え、少なくともそれの故障を恐れて車に乗らない人は居ないくらいには、世間からの信頼を勝ち得ています。
問題は、免震装置を作
っているメーカの品質管理はトヨタや日産と同程度なのか?ということです。私自身の偏見を含む見解を言うなら、私は住宅業界の品質管理をそこまで信用していません。住宅業界は江戸時代だと思っているくらいですから。

そう考えると、現時点では(1)が一番無難なアプローチかなという気がします。勿論、共振対策がされていることが大前提ですが。

4.振動エネルギーの吸収方法の違い

振動エネルギーの吸収方法も大きく3種類あるようです。

(1)摩擦抵抗型

一条工務店のハイブリッド免震工法が該当します。下の基礎との間で動きが生じる際に、意図的にある程度の摩擦をもって動くようにしておき、その摩擦で振動エネルギーを吸収する方式です。意外にもこの方式はマイナーの様です。摩擦というのはやっかいなもので、狙った通りに制御するのが難しいんですね。なのでどうしても「出たとこ勝負」的な特性になりますから、工学屋としては避けたいのは道理です。
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(2)ダンパー型
ダンパーというのは内部に液体を封入した注射器のようなモノで、「意図した通りの摩擦を発揮させる」為に使います。摩擦と言っても、得られる効能が摩擦によるものと同じということであって、動作原理は異なります。(流体の粘性抵抗を利用しています。)
「意図した通り」の摩擦(に相当する効果)が発揮できるのが、本当の摩擦と大きく異なります。これにより、「設計通り」のエネルギー吸収を行うわけです。
世間的にはこちらが主流です。ただ、ダンパーって高いんですけどね。住宅が揺れるエネルギーを吸収しようなどという大型のものは特に。
 
(3)吸収機構無し
エネルギー吸収の機構を全く持たない方式で、調べた限りではエア免震だけが該当します。もともとエア免震は復元力がゼロなので共振の恐れが無く、その意味ではエネルギー吸収の機構が無くても支障ありません。合理的な割り切りでしょう。
ただ、地面と建物のずれる量を規制する機構が全くないことになるので、揺れ幅の大きな地震が来て、装置の想定限界に達したら土台の破壊などの酷いことになってしまいそうです。他の方式に比べて、揺れ幅の許容量を大きく取っておかねばならない方式と言えるでしょう。
冷静に考えると、IAU型の「浅いすり鉢+ベアリング」も共振の恐れはほぼ無いのですから、高価なダンパーなんぞ使わなくても良いのではないかという気がします。まあ、メーカ毎に色々と設計ポリシーがあるのでしょうが。

(3)は復元力が無い(又はほとんど無い)方式としか組み合わせられないので、(1),(2)と単純に優劣比較することは出来ません。組み合わせ上可能な場合は一番合理的(何より経済的)と思いますが、ダンパーが必須とは思えないIAU型がダンパーを使っていることからすると、何か私の見落としがあるのでしょうかね?
(1)と(2)の比較をするなら、勿論(2)が特性上優れます。ただ、上にも書きましたがダンパーって高いので、コストパフォーマンスの観点では、何が何でもダンパーにこだわるべきかというと、ちょっと疑問があります。それでなくても免震工法って高いので。

免震装置における振動エネルギーの吸収という用途に限れば、吸収率が2倍くらい違っても問題ないような気がしますし、(1)で十分じゃないかなと個人的には。(10倍も違うと問題でしょうが。)

5.横滑りさせる方法の違い
建物を横滑りさせる方法は、復元力の発生のさせ方や、振動エネルギーの吸収方法に密接に関わるので、単独で取り出して云々するのはあまり意味がないと感じます。
なので、他と比べて特殊な方法であるエア免震についてのみ、思うところを簡単に書いてみましょう。
  • 空気の圧力で浮くというのは、原理的に正しい。自動車のタイヤの空気圧より小さい力で十分というのも計算上正しい。面白い着眼点と言える。
  • 家が水平に浮くかどうかが心配。総2階の長方形の家ならいいが、重心が偏った位置にある間取りだと、その分だけ斜めに浮き上がることになる。軽い側にバランサー(要するに重りと思われる)を付けてバランスを取るようだが、十分な平行度が出るか? 十分な平行度が出なければ、浮上、着床時に家の土台に負担(ねじれ力)がかかる。また、バランサーが何処に装着されるかによっては、建物躯体に余分な負担がかからないか?
  • 浮上量が25mm程度というのは小さすぎないか? 縦揺れ時に基礎と上盤(建物が乗っかっている部分)が衝突して、建物の土台に損傷が出るのではないかと懸念される。(縦揺れは横揺れに比べると小さいとは言うものの‥‥。)
私自身は、安心して採用するにはちょっと遠いかなと感じています。ここがダメと言うよりは、よく分からないことが多くて。

6.まとめ
というわけで、性能面ではIAU型のボールベアリング+ダンパーがベストと言えそうです。ただ、コストパフォーマンスの点では一条工務店方式のゴム+摩擦減衰も良さそう。
業界最安値の一条工務店ですら、建てる者にとっては十分に安価という感じはしません。感覚的には、建物価格の5%くらいが大きな負担にならずに採用できる上限かなという気がします。坪単価60万円として坪3万円のアップ。40坪なら120万円(この条件で、一条工務店なら260万円。他社ならもっと高い。)
その認識で言うと、今は性能を追求するよりも、安価にすることを優先すべき時期でしょうから、一条工務店方式に総合的には軍配が上がるように感じます。(繰り返しますが、それでもあと半値にして欲しい。)

もっと安価に免震を選べるよう、業界関係者の皆さん、頑張ってください。