自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

住宅業界は江戸時代

久しぶりに四方山話を。

こんなブログをやっていることから分かる通り、私は現在、自宅を建てようといろいろ検討中の身です。

一方で私は本業としてとある製造業に身を置き、エンジニアとして仕事をしています(住宅業界とは全く違います)。
今回は、そんな「普通の製造業の視点で見たときに気づく、住宅業界の問題点」についてです。

1.客にお門違いな勉強を強いる住宅業界

私は建築業界とは全く違いますが、製造業で働いています。建築業界も製造業も、モノを作って人の役に立つと言う意味では同じだと思っています。
そんな私の目から見て、建築業界は、まあ、何というか、業界自体が「未成熟」です。はっきり言って「これは酷い」というレベルです。江戸時代かと思いました。文明開化前なのは確実です。これほどレベルが低いのは、他には農業くらいしか知りません。

例えば皆さんは車を買うときに、「高張力鋼板の使用率が30%以上あるのが望ましい」という話を聞いたことがあるでしょうか?
あるいはテレビを買うときに、「使っているASICの検査カバレッジが95%以上あるか確認してから買った方が良い」という話を聞いたことがあるでしょうか?

あるわけ無いですよね。当たり前です。そんなのは、プロであるメーカの人々がよろしくやってくれていて、買う側が気にする必要はないからです。
とにかく買う側は、「その車は自分のライフスタイルに合うか?」とか、「そのテレビに付いている新機能は、自分にとって魅力的か?」と言ったことを使う立場で考えればよいのです。

ところが住宅業界では、やれグラスウールは吸湿し易いから避けろだの、そんなのは施工が下手だからだとか、サイディングの取り付け金具は純正品かどうか確認しておけだの、基礎コンクリートの呼び強度とスランプ値がどうしたこうした‥‥。
挙げ句の果てには、「施主も少しは勉強しないと良い家は建ちませんよ」と来る。
しかり。
家は高価なもの、生活に密着したもの、簡単に取り替えることができないもの。だからこそ、「勉強しないと良い家は建たない」は事実でしょう。

でもね、そこで言う「施主がすべき勉強」とは、「自分は新居でどの様に暮らしたいのか?」、「自分たちの暮らし方に合う間取りはどの様なものか?」といったことであるはずで、「基礎コンクリートの湿潤養生の方法」は決して施主がすべき勉強には含まれないはずです。
そんなことはプロである作り手の人が、何も言われなくても万事抜かりなくこなすべき事であって、その手のことで施主に勉強を強いるなんてどうかしています。何故施主が作る立場での勉強をせねばならないのか?

勿論、施主の立場で言うならば、「そうは言っても業界がこういうレベルなんだから、自衛策としてそう言う勉強をしないわけにはいかないでしょ」ということにはなるでしょう。私もその意見には賛成です。あくまでも施主の立場で言うならば。
でも、それを業界の人間が言っちゃあお終いでしょう。プロとしての存在意義を自ら否定するも同然です。残念ながらそれを堂々と主張する業界人が少なからずいるのが現実です。こんな業界、他にはなかなかありません。

これが「江戸時代」だと思う所以です。

もしも、「車の製造を理解せずに、良い車を買えるわけがない」と自動車メーカの人が言ったらどう思いますか?
もしも、「LSIの設計に関心もないのに、良いTVを買えるわけがない」とTVメーカの人が言ったらどう思いますか?

2.業界内での足の引っ張り合いと、それに引っ張られる施主の価値観

江戸時代な住宅業界の中にも、「このままじゃいかんぜよ」と言っている幕末の志士のような人たちが居ます。大手住宅メーカです。
彼らは施主を「お門違いな勉強」から解放し、「施主がすべき勉強」に集中できるような体制を提供しようと頑張っています。「専門的なところは我々がきっちりやりますんで、どうぞご安心下さい」と言えるように。
実際のところ、その努力はまだまだ不十分なようですが、向かうべき方向としては正しいと言えます。

ところが、業界の中には大手メーカの努力を正当に評価しない声が多数あるように見受けられます。「大手はもうけ主義」とか、「信頼できる地元工務店を探した方が、安くて良い家が建てられる」などといって、大手ハウスメーカを検討している施主に翻意を促す意見をネット上では良く読みます。
あまつさえ施主の中にすら、「大手は30%が宣伝費」という意見が出てくる始末です。もっとも、決算報告書を読んだ上でそう言う主張をしている事例にお目にかかったことはありませんが。


私は住宅業界の内情に精通しているわけではありませんが、自分自身が製造業に身を置く関係で、大手と言われるメーカがどういうところにコストをかけているかを知っています。恐らく、住宅業界でもその点に違いはないでしょう。信頼性・安全性の確認や新技術の開発をしなくても、目の前の家は建てるだけなら出来ます。しかし、そこにしっかり人と金と時間をかけないと、「継続的に」良いものは作れません。

自動車の場合、人命に直結することもあって生産には厳しい制約が課せられており、その為メーカは大手と言われるところに絞られていて、「地元の工務店」に相当する作り手は存在していません。
仮に法的な制約が無く、「地元の工務店」に相当する自動車メーカがあったとして、果たして皆さんは「無駄な宣伝費をかけていないメーカだから安く買える!」といって喜びますか? ほとんどの人は「そんな車、安心して乗れねーよ」と思うのではないでしょうか。だって、衝突安全性の試験すらやっていないのですよ。

家電の場合、あえて言えば中国や台湾のメーカが「地元の工務店」に相当するかと思います。TVなど、国内の大手メーカに比べるとかなり安く店頭に並んでいます。
しかし現実問題として、それらのメーカの製品は日本ではほとんど売れていません。それらメーカの製品には大半の消費者がNoと言っているわけです。販売店も売れないことを知っているから仕入れることが無く、消費者の目に留まらないからますます売れません。

余談ですが、自動車業界には光岡自動車という極めて小さなメーカが存在しています。あえて言えば「地元の工務店」に相当する存在と言えるかも知れません。TVCMもやっていませんから、ますます「地元の工務店」っぽいです。
しかしその価格は、例えばビュートという小型車の場合、210~255万円(本体価格)もします(2020/04/26注:価格が246.4万円~に値上げされています)。他社で言えばヴィッツやフィットに相当するクラスの車ですから、相当に割高です。1.5倍くらいでしょうか。大手と同じくやるべきことをやって、しかも大量生産による低コスト化ができない場合、どうしてもそうなってしまうと言うことでしょう。
さて、住宅の場合は?


不思議なことに住宅の場合に限っては、「大手に金を払うのなんか無駄」とか、「地元の工務店の方が良い家が建つ」といった意見が多く出てきます。自動車や家電でも同じようなことが言われているなら首尾一貫した主張だと思いますが、住宅でしかそんな意見が出てこないのは如何にも不自然です。「何か重要なことを見落としているからそんな意見が出てくるのではないか?」と考えてみるのは、決して無駄なことではないでしょう。

3.品質-直せばいいってもんじゃない-

住宅ではアフターサービス(又はアフターサポート)が重要、という意見は良く聞きます。確かに、出てしまった不具合をタイムリーに直してくれるサービスは、(有償であれ無償であれ)大切なことのひとつです。

しかし、一般的な製造業の視点で言うならば、「それを言う前に、そもそも不具合が出ない様な努力を可能な限りしなさい」と突っ込まずにはいられません。
例えば家電業界では、1,000台に1台の不良があったら「異常な不良率」です。10,000台に1台なら何とか許せる。自動車業界ではもう一桁厳しいでしょう。先ずはそのレベルに不良率を下げる努力をして、それでも出てしまう不具合には、サービスで迅速に対応できるように体制を整える、と言うのが本来の順番でしょう。


実際のところ、住宅業界の不良率はどうなのでしょう? 100件に1件くらいでしょうか? もっと多い? 少ない? 残念ながらデータを見つけることができませんでしたが、家電や自動車に比べて遙かに多いように感じられるのは、気のせいではないと思います。

「住宅は部品点数も多いし、複雑な商品だから」という言い訳が聞こえてきそうです。しかし、それを言ったら自動車は部品点数が数万点に及ぶ複雑な商品です。顧客から要求される品質レベルも、日本の場合は塗装に髪の毛よりも細い擦り傷が一本あっただけでクレームになるほどで、そういう些細な不具合さえも発生させないような高い品質を実現しつつ、しかも不良率は前述のレベルです。(更に言うなら、航空機業界を引き合いに出しても良いでしょう。もっとシビアですから。)
複雑さは住宅特有の言い訳として通用するとはとても思えません。

住宅業界でもう一つおかしな事は、
施工の不良などを防ぐためには第三者検査が必要とされていることです。「施工した業者自身による検査がどうして信用できるのか?」などと言われたりもします。その為、建築士などで構成されたNPOが実費で第三者検査のサービスを提供している事例もあり、その努力には頭が下がります。

しかし、そういうのが必要という事自体が、業界の未成熟さを象徴していると言わざるを得ません。


トヨタ東芝の品質保証部門は信用できませんか? 第三者検査が必要と思いますか? 住宅以外の業界では、「第三者検査をしていないと安心して買えない」とか、「作ったメーカ自身の検査がどうして信用できるのか?」などと主張すると、ちょっとおかしい人と思われることを覚悟せねばなりません。
住宅業界だけが、おかしいのです。

勿論、おかしな事とは言いながら、現実を見る限りは必要性を否定できない気はします。
早くそんな異常な状態を脱して、
住宅業界全体として「文明開化」を迎えて欲しいものだと思わずにはいられません。

4.まとめ

今回書いたようなことは、特定のメーカがどうこうと言ってもあまり意味のないことです。「積水ハウスは素晴らしい」とか、「地元の工務店はけしからん」とか、そう言う話ではありません。これは住宅業界全体として取り組んでいく必要のある話なのです。
個々の商売ではライバル関係にあったとしても、こういう問題に対しては協力して取り組むべきです。さもなくば、業界そのものが消費者から見放されてしまいます。

そうでなくても今後の日本は人口が減ります。住宅着工件数もそれに比例して減るはずです。規模的にはしぼんでいく業界だからこそ、消費者からの信頼を掴んでおかなければ、それ以上に沈んでしまいます。
大手メーカも地元の工務店も、くだらない足の引っ張り合いを止めて、先ずは「業界としての信頼構築」に取り組んで欲しいと思います。

5.おまけ

実を言うと、私自身はここで言うところの「お門違いな勉強」が嫌いではありません。むしろわりと好きな方です。それに、分野こそ違えどエンジニアですから、技術的な話にはいくらでも付いていけますし。
でもほとんどの人には、これほど手間をとられて小難しい話に付き合わねばならないのはたまらないでしょう。私でさえも、必要な時間の長さには参っています。興味深い勉強ではありますが、
本業の勉強もしなければなりませんから、こればっかりやってるわけにもいきませんので。

住宅は自動車に比べると10~20倍くらいの金額ですが、購入にあたって必要とされる勉強の量は、100倍くらいあるのではないでしょうか。これをせめて金額の比率と同じくらい、10~20倍程度で済むようにして欲しいものです。
家は重要なものですが、車だってどうでも良いわけではないし、食に対する勉強だって重要です。勿論子育てだって重要です。人生の限られた時間の全てを住宅のために費やすわけにはいかんのですよ。
だからこそ、専門的なことは専門家に任せたいんです。私自身、自分の本業に関しては「お任せ下さい」と言えるように仕事をしているつもりです。
それが本当の専門家としての仕事だと思うわけです。