自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

熱容量を大きくする方法

建物の熱容量が大きければ、断熱性の高さと相まって温熱環境が快適になるはずだと言う話を書きました(前編中編後編)が、仮にその話に賛同できたとするなら、次に問題になるのが「どうやったら熱容量の大きな建物が実現できるのか?」です。実現手段が無ければ画に描いた餅です。
以下では、その具体的な方法について考えてみます。但し、ここからは素人の思いつきが多分に含まれます。施工上、現実味のある方法かどうかは一旦置いておいて、先ずは可能性の話をしてみることにします。施工の実現性はその後です。

 

1.RC(鉄筋コンクリート)造の家にする

いきなり反則技の気もしますが、多分これが最強です。これは素人の思いつきではなく、十分に実現性があります。何度か紹介した日本外断熱総合研究所のウェブ・サイト(2020/04/19注:サイト主が転職したのか、ウェブサイトが全く別の個人ブログの様な内容に変わっています)に依ると、RC造の建物の熱容量は40[kWh/K]、それに対し木造は5[kWh/K]で、実に8倍の差があります。極めて大きな熱容量の建物にできます。勿論、外断熱にするのが大前提です。

引き合いに出しておいて何ですが、この8倍という数値の開きはちょっと大きすぎる気がします。
上記の熱容量の数値とコンクリートの質量比熱(0.798[J/g・K])から、同社はRC造の建物の質量を180t(トン)とみていることが分かります。これは何となくそれらしい数字です。
一方、同様の計算を木造に対して行うと、14~17t 程度となります(木材の質量比熱を1.26[J/g・K]、石膏ボードのそれを1.05[J/g・K]で計算)。こちらはちょっと軽すぎる気がします。例えばこちらのQ&Aでは建物の質量を16t と見積もっていますが、これは外壁だけで内壁が含まれていませんし、内装の石膏ボードなどの重量物も含まれていません。それらを含めると質量は倍以上になるようです。
私がここで検討対象としている質量は「断熱ラインの内側の質量」なので、建物の質量よりも軽くなるとは言え、それでも20~25t程度が妥当ではないかという気がします。根拠が薄弱ですが。
もしもそうだとすると、RC造と木造の熱容量の差は、5~6倍程度まで縮まります。


RC造の難点は価格が高いことです。日本外断熱総合研究所のウェブ・サイトには施工事例の写真がありますが、コンクリートむき出しの内装になっています。そうでなくても高価なRC造を、少しでもリーズナブルな価格にするための工夫がコンクリート打ちっ放しの内装なのだと思われます。
これでも良いという人はこれで万事解決ですが、私自身は自分が住む家としてどうにも受け入れがたいです。きちんと内装することは可能でしょうが、更に価格が上がって、これはこれで受け入れがたいレベルになってしまう気がします。
それ以前に、個人的にRC造というのが(自分の住まいとして)しっくり来ないのですが(これは良し悪しではなく、あくまで好みの問題)。

と言うわけで、私自身は他の手を模索する必要がありそうです。

 

2.石膏ボードをしこたま使う

あくまでも木造又は軽量鉄骨という一般的な工法の範囲内で建物の熱容量を大きくするのであれば、少しでも熱容量の大きな材料を少しでも大量に使うのがその手段になります。
実は我々の身の回りにある身近な物質の中で、最も比熱の高い物質は水です。この水を大量に含むのが石膏ボードなのです。

石膏ボードは化学的には「硫酸カルシウム2水和物」というもので、その内部に質量の21%に相当する水を含んでいます。なので、1kgの石膏ボードは、210gの水よりも大きな質量比熱を持つはずです(210gの水の比熱と790gの硫酸カルシウムの比熱を足した値になる)。
実際のところ、水と石膏ボードの比熱は下記の通りです。

    質量比熱   体積比熱
     [J/g・K]   [J/cm3・K]

-----------------------------------------------
水       4.2     4.2
石膏ボード   1.05      0.907

水のほぼ1/4の比熱です。たった1/4という言い方もできますが、他の建材に比べれば、これでもかなり大きな数値です。
何よりも石膏ボードが有り難いのは、建材として極めて一般的なものである為、特別な工夫をしなくても使えることです。と言うか、頼まなくても既に使われています。これの厚みをアップさせるのであれば、特に困難もなく実現できるでしょう。それでもRC造の熱容量にはまだまだ遠いでしょうが、何もしないよりはずっと大きな熱容量にできます。
石膏ボードが好都合なもう一つの理由は、室内環境にかなり近い場所にあることです。内装仕上げにもよりますが、室内空間と壁紙一枚しか隔てていない場所に存在しています。断熱ラインの内側はどこでも同じとはいえ、室内空間に近い方が、室温の安定化にはより直接的に効果があります。床下や天井裏だと、床材や天井材が(弱いながらも)断熱材として作用しますから、室温安定の効果がやや弱まります。その意味で、石膏ボードは良い場所にあると言えるでしょう。

ところで、今回私が検討候補のひとつに挙げている一条工務店は、他社に比べて多くの石膏ボードを使っています。普通、壁に12.5mm厚の石膏ボードを使うことが多いですが、一条工務店では18mm厚です。しかも、床にも18mm厚の石膏ボードを貼っています(普通、床に石膏ボードは貼らないことが多い)。
壁の厚み増と床への追加で、一般的な他社に比べて、ざっと2倍くらいの石膏ボードを使っていると言えそうです。石膏ボード分の熱容量は一般的な住宅に比べて2倍ということです。家全体としての熱容量は石膏ボード以外によるものもあるので、2倍よりは効果が薄まりますが、1.5倍くらいはあるのではないでしょうか。(きちんと計算したいのですが、計算の元ネタが足りません。機会があれば仮定まみれの計算をやってみようと思います。)
一条工務店の夢の家は、実際に住まわれている方からの評判が良い(温熱環境に関して)みたいですが、その理由のひとつが石膏ボードの多用による熱容量の大きさにあるのではないかと私は睨んでいます。

同じだけ石膏ボードを使えば、他社でも一条工務店並にできますし、もっと厚いものを使えばそれ以上にもできます(施工上の上限はあるでしょうが)。
比較的簡単に実現できると思われるので、是非やってみたいですね。

2010/09/14追記
後で確認したら、一条工務店でも床暖房を採用する場合は床には石膏ボードを使わない様です。床暖房を使わない、標準状態の場合は床にも石膏ボードが使われるのは間違いありません。以前、住まいの体験祭に行ったときに聞きました。
もしかしたら、床の石膏ボードは床暖房パネルとの厚さ合わせのためなのかも知れません。(床暖房パネルの厚さが、石膏ボードと同じ18mmですので。)

 

3.その他の熱容量の大きな物質

ここから先はとたんに現実味が薄くなります。施工上の実現性が全く分からないからです。役立たずなアイディアになる可能性が高いですが、思いついたものを列挙しておきます。

(1)木毛セメント板
こちらのウェブ・サイトでそう言うものがあると知りました。
メーカから得た情報として、体積比熱420[kcal/m3・K](=1.76[J/cm3・K])よりやや小さい程度、と書かれていますが、この数字はにわかには信じがたい数字です。というのも、この材料は比重が1なので、コンクリートと比べて密度が半分以下なのに、体積比熱はほんどコンクリートと同じ(やや小さい)ことになるからです。
コンクリートと木を混ぜて作ったものなので、性質もコンクリートと木の間になるはずです。コンクリートが多ければ性質はコンクリートに近づきますし、逆も同じく。密度が半分以下と言うことは、同じ体積の中に、コンクリートは半分以下しか含まれていないことになります。これだとど真ん中よりも木に近い性質になるはずです。そして、木の体積比熱はコンクリートの1/3しかありません。しかし、木毛セメント板の体積比熱は、コンクリートに肉薄するものだというのです。
高圧で圧縮してあるとのことなので、あり得ない話ではないとも思いますが、やっぱり信じがたい。

もしも本当ならば、石膏ボードの代わりに使うことで、熱容量を2倍弱にできます。
但し、カッターで切断できる石膏ボードに対し、こちらはそうはいかないでしょうから、施工性などに課題は出るものと思われます。

(2)蓄熱レンガ
これは思いつきです。蓄熱式暖房器具に使われる蓄熱レンガを壁や床に使えば、熱容量が大きくできるという発想です。
ちなみに酸化鉄系の場合で体積比熱は2.89[J/cm3・K]という数字を見つけました。石膏ボードの約3倍。重さ当たりだと石膏ボードの方が比熱は大きいのですが、何せ密度が高いので、体積当たりだとこちらの勝ちです。
実際には壁材・床材にするのは不可能でしょうから、床下にでも置いて蓄熱してもらう感じでしょうか。とは言え、床下が断熱ラインの内側でなければなりません。桧家住宅はこの条件を満たしますが、他の多くのメーカはダメですね。それに、床の合板というあまり熱伝導の良くないもので室内空間と隔てられているので、室温の安定性と言う目的に対してはちょっと効果が弱い印象です。決して無意味ではありませんが。
もうちょっとマシなのは内壁の中に置く方法。外壁の中は断熱材が詰まっているので入れられませんが、内壁の中は空いています。そこに入れる。とは言え、蓄熱式暖房器具用のレンガがそのまま入るほど壁は厚くないでしょう。特注のサイズを作ってもらえるとも思えません。価格も高そうです。

これはちょっと思いつきの域を出なそうです。

(3)潜熱蓄熱材
これもかなり思いつきです。
換気によるQ値の悪化を計算したときに、潜熱の大きさについて触れましたが、それを蓄熱に使おうというものです。例えば氷なら、外部から熱が伝わってきても、解けきるまでは0℃を保ちますし、逆に外部から冷やされても、氷になりきるまでは0℃を保ちます。
0℃では蓄熱材として使い難いですが、特殊な素材で20~25℃程度のものが作れれば、その温度に安定化させることができます。水の比熱が大きいと言いましたが、潜熱はそれ以上にでかいです。理屈上は申し分のない性能です。
JOMOのエコジュールであれば、質量比熱は石膏ボードの20倍以上に相当します。エコジュールの比重は不明ですが、パラフィンなので、石膏ボード(0.86)と大差ないでしょう。なので体積比熱も石膏ボードの20倍近い値のはずです。

ゲル状のものですから、構造物としては使えません。耐熱レンガの時と同じく、内壁の中の空洞に入れて使うことになるでしょうか。

これを使う場合の課題は、室温を蓄熱材の相転移温度にしかできないことです。それを外れる温度では潜熱蓄熱材として働かないので、有っても無くてもあまり変わらないと言うことになってしまいます。
室温がいつも同じなら結構な事という気もしますが、実際のところ、夏と冬では快適な室温は違うのが普通です。少なくとも私の場合はそうです。となると、夏に合わせた蓄熱材は冬には効果が無く、その逆も同じくと言うことになります。複数の性質の蓄熱材を併用すればいいのかも知れませんが、あまり現実的ではない気がします。

というわけで、これも思いつきの域を出なそうです。
ただ、本質的な性能は高いので、上手く活かす方法がないか、考えてみたいところではあります。

 

4.まとめ

と言うわけで、今回は建物の熱容量を大きくする方法について考えてみました。
現実的には「なるべく厚い石膏ボードをなるべくたくさん使用する」というあたりに落ち着きそうです。
詳細はハウスメーカと相談ですね。