自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

換気によるQ値の悪化

前回はC値を元にQ値の悪化度合いを計算しましたが、同じ方法で「換気によるQ値の悪化」がどの程度かを計算することができます。C値の場合はすきま風の風速がどの程度かはっきりせず、かなり適当に仮定をして計算せざるを得ませんでしたが、換気の場合、法律で決められた計画換気の量がありますから、空気の入れ替わりペースが決まっています。なので、計算もほぼ正確に可能です。

なお以下では、熱交換をしない場合のQ値の悪化度合いを計算します。熱交換する場合は、その分だけ悪化が軽減されます。

1.顕熱と潜熱

最初に、熱交換をしない場合には何故Q値が悪化するのかという基本的なところをおさらいしておきます。

冬の場合、熱交換をしない単純な換気をすると、室内の暖かい空気が屋外に出て行き、冷たい外気を室内に取り込むことになります。当然、室温を維持するためにはエアコンやヒータで暖めないといけません。逆に言うと、室温を維持するために発生させた熱の分だけ、換気によって熱が外に逃げたと考えることができます。もともと熱が逃げるペースを表したのがQ値ですから、換気をした分だけ熱が逃げる速さが上乗せされた、即ち換気の分だけQ値が大きく(悪く)なったと理解できます。
夏の場合も熱の移動方向が逆になるだけで、同じ事です。
これは割と分かりやすい話でしょう。ここで言っている熱は、「顕熱」と呼ばれるものです。世間で単に「熱」と言われたらこれのことです。空気の温度、と言う解釈でも差し支えありません。

一方、換気で失われる熱には顕熱の他に「潜熱」と呼ばれるものがあります。これはちょっと難しいですが、「水蒸気が持っているエネルギー」のことです。
再度冬の場合を考えてみます。日本の冬を室内で快適に過ごすためには、室温を上げるだけでは不十分で、加湿もせねばなりません。加湿するには水に熱を与えて水蒸気にせねばなりません。加湿にはエネルギー(熱)が必要なのです。わざわざ熱を使って加湿した空気を換気によって逃がし、代わりに乾燥した空気を取り込むと、また加湿しなければなりません。また熱が必要です。
つまり、加湿した空気を逃がすと言うことは、熱を逃がしているのと同じなのです。ここで言う熱のことを「潜熱」と呼びます。あんまり熱っぽくない熱ので、「潜ったままで見えにくい熱」というくらいの意味です。でも、熱であることに変わりはありません。

「俺んちは自然気化式の加湿器だから、熱は使ってないよ」とおっしゃる方が居るかも知れません。しかしこの場合も潜熱は存在します。「気化熱」という言葉を聞いたことはあるでしょう。肌を水で濡らしてから乾かせば、乾く間中、濡れた部分が涼しく感じます。これは水が蒸発して水蒸気になるときに、周囲(この場合は肌)から熱を奪っているからです。これが気化熱という潜熱の一種です。
自然気化式の加湿器の場合、加湿器から出てくる湿った空気は室温よりも低い温度になっています。水に気化熱を奪われたからです。このまま加湿を続けると室温がどんどん下がってしまいますので、結局エアコンやヒータで暖めなければなりません。
水の気化という物理現象が関わる以上、どの方式で気化させるかとは全く無関係に、潜熱の影響からは逃れられないのです。

夏の場合はどうかというと、室内では除湿しなければなりません。除湿するためには水蒸気を水に戻さねばなりません。このときは加湿の逆で、気化熱と同じだけの熱が出てきてしまいます。出てきた熱の分だけ冷やさないと室温が上がってしまいます。
つまり、除湿した空気を逃がして湿度たっぷりの空気を取り込むと言うことは、熱を取り込んでいることと同じなのです。冬と真逆のことが起こっていますが、換気で潜熱の分だけQ値が悪化するという点は冬と全く同じです。

熱交換をせずに換気をすると言うことは、上記の顕熱と潜熱の両方によってQ値の悪化が発生することを意味するわけです。

2.顕熱によるQ値の悪化

先ず顕熱によるQ値の悪化ぶりを計算します。
床面積1平方メートル当たりの空気量を求めます。天井高を2.4mとすると、2.4×1×1=2.4[m3]です。
計画換気では1時間に1回、空気が入れ替わらねばならないことになっているので、2時間かけてこの2.4[m3]の空気が出て行き、同じく2.4[m3]の外気が入ってくることになります。
Q値の計算では「室内外の温度差は1℃」が前提なので、ここでも同じ前提を置きます。つまり、何もしなければ2時間後には部屋の温度が1℃下がることになります。先ずはこの室温を維持するため、どのくらいの熱を与えればいいかを計算します。
空気の比重は1.3[kg/m3]なので、先ほどの2.4[m3]の空気は3.12[kg]です。空気の比熱は1.0[J/g・K]なので、3.12[kg]の空気を1℃暖めるためには、3.12[kJ]の熱が必要です。
つまり、2時間かけて3.12[kJ]の熱が逃げていく、ということになります。
Q値の単位にWが含まれていますが、W=J/s(ジュール毎秒)なので、「1秒当たり何ジュールの熱が逃げているか」という意味になります。
先ほどの2時間で3.12[kJ]というのは1秒当たり0.43[J]、つまり0.43[W]です。
以上より、顕熱だけを考慮した場合、換気によるQ値の悪化は0.43となります。

3.潜熱によるQ値の悪化

次に潜熱によるQ値の悪化を計算します。
この場合、温度と湿度を仮定しないと話が進められないので、以下のように仮定します。なお、夏と冬では計算結果が変わって
きますが、以下は冬を想定しています。

室内 : 室温20℃,湿度50% (空調と加湿によってこの環境を保っている)
外気 : 気温5℃、湿度48% (東京都の2009年1月平均値を、この後の計算の都合で5℃刻みに近似したもの)


飽和水蒸気量の表より、20℃/50%の室内空気には1[m3]当たり8.6[g]、5℃/48%の外気には同3.26[g]の水蒸気がそれぞれ含まれています。差は5.34[g](1[m3]当たり)です。これを床面積1平方メートル当たりに換算すると、2.4[m3]の空気がありますから12.8[g]です。これだけの水蒸気が2時間で失われると言うことです。

では12.8[g]の水蒸気を蒸発させるための熱量はいくらでしょうか。
水の気化熱は40.8[kJ/mol]、水は18[g/mol]ですので、2.27[kJ/g]となります。つまり12.8[g]だと29[kJ]です。
これが2時間で失われますので、1秒当たり4.0[J]、つまり4[W]のロスが(床面積1[m2]当たりで)生じていることになります。これから、潜熱の影響により換気でQ値は4.0悪化すると言えます。

うーん、何だか計算間違いのような気もしてくるほど大きな数字ですね。まあ、水の気化熱は非常に大きいことは確かです。ここでは計算間違いはなかったとして先に進みましょう。
さて、これだと45坪の住宅では、600Wくらいのヒーターで水を蒸発させないと加湿が追いつかない計算です。もっとも実際の住まいでは、不足した水蒸気は人間の呼気や調理時の湯気などで補われるので、600W全部を加湿器で消費することにはなりませんが。

何れにしても、換気による熱のロスは、顕熱よりも潜熱の方が1桁大きい事が分かります。熱交換するなら全熱交換型でなければあまり意味はないと言えるでしょう。
勿論、「俺は湿度など気にしない。カラカラの乾燥空気で良いのだ」と言うなら、潜熱云々は無関係になります。ただ、5℃/48%の外気を加湿せずに20℃にしたら、湿度は19%に下がります。喉を痛めなければ良いんですが。

4.結論

換気によりQ値は4.43悪化する顕熱と潜熱の両方の影響を含む)が結論です。とてつもなく大きな数字なので、計算ミスや考え落としがないかどうか、再度チェックしようと思いますが、とりあえずこれが結論です。
全熱交換型の換気システムを採用すれば、この悪化分のうち熱交換効率の分だけは取り戻せることになります。