自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

必要な気密性は如何ほどか? -後編-

-前編から続く-

2.断熱性維持の為に必要なC値

本来の目的である「断熱性を損なわないためには高い気密性が必要」という観点の場合に、どの程度のC値が必要かを考察します。
先にも述べましたが、C値がどの程度だった場合にQ値がどの程度悪化するのかは一概に言えません。とは言え、厳密性を求めているわけではないですから、もっともらしい仮定を置いてラフに計算してみます。

そもそも施工によるQ値の悪化はどの程度まで許容すべきでしょうか?
なかなか難しいところですが、ここでは「10%の性能低下」まで許容することにします。そして、その10%の性能低下が全てすきま風によるものだと仮定して、C値の許容限界を算出します。実際には「断熱材に隙間がある」と言ったすきま風以外の性能低下要因もありますから、すきま風だけで10%を認めてしまうと、本当の性能低下は10%を超えることに
なります。ただ、それを言い出すときりがないので、この仮定でいいことにします。
前提となるQ値は私が必要値として掲げている1.5とします。なので、10%の性能低下とは、Q値が0.15だけ悪化することに相当します。
なお、C値もQ値も「床面積1平方メートル当たり」の数値ですから、以下は全て「床面積1平方メートル当たり」での計算です。また、Q値は室内外の温度差が1℃だった場合の数値なので、以下の計算もその前提です。

先ず、Q値を0.15だけ悪化させるには、どの程度換気すれば(=すきま風が入れば)良いかを計算します。室内外の温度差が1℃のとき、床面積1平方メートル当たり0.15Wの熱損失を生じさせる換気量ということです。W=J/s(ジュール毎秒)ですから、1秒当たり0.15[J]の熱損失。
空気の比熱は1.0[J/g・K]なので、毎秒0.15[g]の空気が入れ替われば良いことになります。これを体積に換算すると、空気の比重は1.3[kg/m3]なので、11.5[cm3]です。1秒当たり、これだけの空気が入れ替われば条件を満たします。

さて、これだけのすきま風を生じさせるための隙間の大きさとはどの程度でしょうか?
風速が大きければ、小さな隙間からでもじゃんじゃん空気は漏れていきますが、全てが吹き飛ぶような勢いのすきま風が吹くはずはありません。すきま風の典型的な流速というのは聞いたことがありませんので仕方がありません。秒速10cmと仮定してみましょう。
秒速10cmの流速で、毎秒11.5cm3の空気を取り込むには、断面積が1.15[cm2]の隙間が必要です。正方形だとすると、1.07cm四方の大きさです。
空気が入れ替わるためには、入り口だけでなく出口も必要なので、必要な隙間はこの2倍、2.3[cm2]の隙間が必要と言うことになります。これは床面積1平方メートル当たりの隙間、つまりC値そのものと言うことになります。

結論 : 断熱性維持のために必要なC値は2.3以下 (Q値が0.15だけ悪化する条件にて試算)

3.計画換気の為に必要なC値

2つめの目的である「計画換気のためには高い気密性が必要」という観点の場合に、どの程度のC値が必要か考察します。

最初に踏まえておかねばならないのは、「計画換気のためにC値の性能が必要」というのは、第3種(又は第2種)換気の場合です。第1種換気の場合は、C値に対する要求があまりシビアではありません。
換気の種別に寄らず、計画的に室内を換気するためには、部屋の対角となるコーナーに吸気口と排気口を設け、なるべく部屋全体の空気が入れ替わるようにするのがセオリーです。このとき、排気口の直ぐ近くに穴(隙間)が空いていたらどうなるでしょう? 第3種換気の場合、排気口からファンで部屋の空気を吸い出しても、直ぐ近くの穴から外気が入ってきて、排気口周辺の空気しか入れ替わらないことになってしまいます。部屋全体の換気にはほとんどなりません。第2種換気の場合も吸気と排気が逆になるだけで、同様です。しかし第1種換気の場合は、「部屋から空気を吸い出すと同時に、同じだけの空気を部屋に押し込む」ので、穴(隙間)からの空気の出入りはあまり発生しません。第3種や第2種の換気に比べて、穴(隙間)の影響はずっと小さくなります。
従って、この項目で計算するのは、換気が第3種(又は第2種)の場合であることに注意してください。

さて、第3種(又は第2種)換気において、意図した空気の流れを乱さないためには、意図して設けた吸排気口以外の隙間は可能な限り減らす必要があります。では狙った吸排気の足を引っ張らないためには、隙間はどのくらい小さい必要があるでしょうか。
正確な狙い値を提示するのは難しいのですが、これも10%、つまり本来の吸排気口の大きさの1/10までは、計画換気に大きな影響を与えないと仮定しましょう。となれば、「本来の計画換気の為の穴の大きさはどのくらいか?」が求まればいいことになります。

計画換気は、2時間に1回、部屋の全ての空気が入れ替わるペースで行うことになっています。12畳のリビングで、天井高を2.4mとすると、部屋の容積はおおよそ 5.3×3.5×2.4=44.5[m3]になります。これを2時間(7,200秒)で入れ替えるためには、毎秒6,183[cm3](6.18[L])の空気を入れ替えねばなりません。結構なハイペースです。
24時間換気システムではごうごうと音を立てて換気するわけに行きませんので、ある程度ゆっくり空気を流さねばなりません。当然、その分だけ吸排気口の断面積を広くする必要があります。では許容される流速はどの程度でしょうか。
先ほど計算した「すきま風」は自然に入ってくる空気の速度だったので、秒速10cmと仮定しましたが、今回は機械で換気する前提なので、それよりはずっと速いはずです。一方、エアコンよりはずっと静かでなければならないとすると、それよりは遅いはず。エアコンは秒速1mというところでしょうか(吹き出し口部分にて)。と言うわけで、間を取って、秒速30cmを許容できる流速にしましょう。ど真ん中よりも低い値にしている理由は、私はこの手の音が嫌いだからです。エアコンと違って文字通り24時間稼働させるので、私じゃなくてもかなりシビアに判定すべきでしょうしね。
秒速30cmで毎秒6,183[cm3]を流すためには、206[cm2]の断面が必要です。正方形だとすると14.4cm四方の大きさです。

206[cm2]の排気口があって、そこから排気すると、同じく206[cm2]の吸気口から排気しただけの空気が入ってくる。これが第3種換気です。このとき、吸排気口以外の隙間は全て吸気口として作用します。これが本来の吸気口の1/10以下の大きさであれば、大きな影響を与えないと最初に仮定しましたので、許容される隙間は20.6[cm2]ということになります。
(第2種換気だと吸排気が逆になるだけで、考え方は同じです。)
これは12畳のリビングでのトータル隙間量なので、床面積1平方メートル当たりに換算すると、1.04となります。

結論 : 計画換気のために必要なC値は1.0以下 (第3種又は第2種換気の場合)

4.総合結論

以上2つの試算の厳しい方の値を採用すれば、必要なC値が求まります。結論は下記です。

第1種換気の場合     必要なC値は2.3以下
第3種又は第2種換気の場合  必要なC値は1.0以下

と言うわけで、もっともらしい結論が出ましたが、1つ忘れてはならないのは、上記の計算には仮定が山ほど入っていると言うことです。
すきま風の風速は秒速10cmと仮定していますが、本当は20cmだったなら、1項の結論は「C値1.15以下」になっています。第1種換気での必要性能に大きな違いが出ます。
また、「換気口の10%もの隙間が空いていては話にならない。5%以下でなければ」と考えるなら、第3種、第2種換気での必要なC値は0.5以下になります。甚大な影響です。
ここでは考え方と計算方法までご紹介していますので、ご自身の計画に当てはめて数字をいじれば、ご自身のプランでの必要なC値が算出できるはずです。是非やってみて下さい。

私の場合、現在有力候補の一条工務店は第1種換気でC値が実績平均0.71なので先ず大丈夫。
もう一つの有力候補である桧家住宅は、‥‥分かりませんね。確認しとこう。