自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

必要な気密性は如何ほどか? -前編-

断熱性に続き、気密性についてあるべき論を考えてみます。

1.高気密って何のためのもの?

冒頭からいきなりですが、実はこれがよく分かりません。私の中では2つの仮説があります。

  1. 計画換気のために必要
  2. 高断熱を実現するための要因として必要

最近、ネット上で繰り広げられている話(特に個人ブログ)を見聞きする限りでは、1.の視点で語られることが多いようです。「高気密は計画換気とセットでなければ意味がありません」てな主張がなされたりします。住宅をストローに見立てて、ストローの中の空気を吸い出すことを計画換気になぞらえているんですね。その上で、

  • 穴あきのストローでは上手く吸えませんよね。
  • それと同様、住宅でも隙間が多いと狙った通りに換気ができないんです。
  • だから隙間の少ない高気密住宅であることが必要なのです。

とたたみかけるのです。
この主張は如何にももっともらしく、また物理現象としては間違っておらず、従ってまずまず納得のいくものです。

でも、冷静に考えると妙な気がしてきます。
そもそも計画換気(24時間換気)というのは、シックハウス症候群への対策として義務づけられたものです。なので、「高気密・計画換気」というセットで語られるなら分かりますが、「高断熱・高気密」のセットにする理由が説明できません。この理由だとすると、高断熱と高気密は全く別の要因に由来する性能であって、一括りで語られるものではないからです。
更に言うと、次世代省エネルギー基準でも、Ⅱ地域以北は2.0以下、Ⅲ地域以南は5.0以下、と地域によってC値の要求値に差を設けています。シックハウス対策としての計画換気が主たる目的ならば、地域によって要求値に差は無いハズです。

そんな風に考えると、むしろ上記の2.が高気密を求めるもともとの理由だったではないかと推定できます。つまり、

隙間が多い → 室内の暖気/冷気が屋外に逃げる → 実質的な断熱性の低下


という理屈です。今でも、ハウスメーカや工務店のウェブ・サイトではこちらに軸足を置いた説明をしていることが多いようです。
ただ、ここで更に疑問が出ます。

  • 断熱性に関わる要因として気にするのであれば、C値で表される優劣は、最終的にQ値に出てくるはず。
  • だからC値なんて不要で、Q値だけ気にしていれば十分ということになる。
  • そうは言ってもC値が重要と言われるからには、そもそも断熱性とは違う理由で意味があるんじゃないの?

さて、どっちが正しいのでしょうか?
これに答えるには、Q値とC値の性質を把握する必要があります。それは、「Q値は計算できるけど実測できない」、「C値は実測できるけど計算できない」、という性質です。

正確に言うとヘーベルハウスの性能体験見学会のときに紹介した様な、巨大な恒温チャンバーという設備を使えば、Q値を実測することは可能です。ただし恒温チャンバーの中に建てた実験用の家だけしか測れませんので、実際に建てた一棟一棟について言えば、Q値の実測は不可能なのです。なので、Q値は計算で出すしかありません。逆に言うと、計算でなら出せます。
一方C値は施工精度に強く依存する数値です。意図して隙間のある設計にするわけではなく、あくまで設計は「隙間ゼロ」ですから、図面から計算でC値を出すことはできません(あえて計算するとゼロになります)。計算では知ることのできないその値は、幸いにして実測が可能です。

以上を踏まえると、以下のような推論が成り立ちます。

  • 住宅の温熱環境を表す指標はどうあるべきかを考えたとき、先ずはQ値が必要という話になった。
  • 実際には施工精度に起因して設計通りのQ値にはならないハズだが、残念ながら「本当のQ値」を直接測ることはできない。
  • 施工精度に起因してQ値を劣化させる要因は、断熱材の部分的な欠損やすきま風などいくつかあるが、その内、すきま風についてはC値として実測が可能である。
  • ならば、「理想的な施工だった場合の性能」としてQ値を用い、更に、「施工精度に起因する性能の低下度合い」としてC値を併用すれば良い。2つの数値の併用によって実際の住宅の断熱性能をかなり正確に表現できるはずだ。

恐らく、こんな風に考えられたのでしょう。結果、断熱性を表す数値としてQ値とC値を併用することになり、一般的に「高断熱・高気密」というペアで語られるようになったという解釈です。「計画換気のための高気密」というのは、後から新しい理由が付け加わったのだと思います。
ところでこういう場合、可能ならばC値(施工精度に起因する断熱性の低下度合い)に何らかの換算をしてQ値に加算することで、「施工精度も加味した本当のQ値」にすべきです。そうすれば1つの指標で断熱性を表すことができて、分かり易いからです。しかし、残念ながら「そのC値だとQ値はどの程度劣化するか」という換算は一筋縄ではいきません。C値で分かるのは隙間の総量だけですが、総量が同じでもその隙間が何処にあるかで断熱性への影響は大きかったり小さかったりするからです。なので、無理して「本当のQ値」に換算することをせず、2つの数値を並記する方法にしたのでしょう。

そんなわけで、私は下記のように考えています。

  • そもそもC値は断熱性を表す補助的な指標として用いられていた。
  • その後、換気が計画通りに行えるかどうかの指標としても使われるようになった。

結局、「高気密って何のためのもの?」という問いに対しては、「2つ挙げた理由が両方とも正解」という無難な結論なのですが、多分これが正しいでしょう。
では次に、C値はどの程度なら良いのか、それを考察してみたいと思いますが、長くなったので続きは次回に。

-後編に続く-