自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

調湿性能の必要値

FASの家は湿度管理機能を備えている事が大きな特徴の1つです。これはひとえに、「温度よりも湿度が重要」という開発元のポリシーによるもののようです。
では、そもそも調湿能力はどの程度必要なのか?

1.必要な調湿能力はどう考えるか?

調湿能力とは、詰まるところ湿気(水分)を蓄えたり放出したりする性質のことですので、何gの水分を保持できるかが最大のポイントです。
何gの水分が保持できれば十分と言えるかの判断基準は非常に難しいところですが、以下の2つの判断基準がありそうです。

  1. 夏の高湿の期間に家に入ってくる湿度を全て吸収・保持しておき、冬の低湿の期間にそれを放出することで、夏も冬も快適な湿度を実現する。
  2. 春と秋、高湿の日と低湿の日が入り交じる期間に、湿度を吸収・放出することで、日々の快適湿度を実現する。高湿の日や低湿の日が3~4日程度続いても、湿度を吸収し続けられる(放出し続けられる)だけの能力を持っておく。真夏や真冬の様に、高湿や低湿の日が延々と続く場合は割り切って、機械による除加湿に頼る。

1.と2.では必要な水分の保持能力が10倍以上違います。1.の能力が有れば理想的ですが、それは多分非現実的な水分保持能力になってしまうので、2.が現実的でしょう。それでもかなりの水分保持能力を必要とされるハズですが。

2.実際に必要な調湿能力は?

夏について試算してみます。部屋の中の余分な水蒸気量を計算し、それが吸収できるかどうか、という判断になります。快適な湿度は気温(室温)によって変わるので、一概には言い難いですが、以下のように考えてみます。

  • 気温(室温)が28℃以下の時は、湿度50%を快適値と仮定し、それを超えている水分を「余分」と見なす。
  • 気温(室温)が28℃以上の時は、室内を28℃,50%に保つことにし、それを超えている水分を「余分」と見なす。

上記判断基準を置いた上で、一般に暑いと感じる期間である、6月中旬から9月中旬までの3ヶ月間について、住宅内の余分な水分量を計算してみます。この期間の余分な水蒸気を全て吸収できる能力が有れば、上記の1.の能力があることになります。
参考にするのは空気線図気象庁の2010年の観測データ(6月7月8月9月)です。

例えば8月1日は、29.8℃,71%です。この条件の空気には、1立方メートルあたり、18.94[g]の水蒸気が含まれています。これに対し、28℃,50%の空気には同11.9[g]の水分が含まれます。この差である7.04[g]を余分な水蒸気と見做すわけです。但しこれは空気1立方メートルあたりなので、延床面積を40坪として住宅の容積をかけると、水蒸気は2,231[g]だけ余分なことになります。
これだけの水分を吸収すれば住宅内は快適な湿度になるわけですが、もう1つの問題は換気です。現在は2時間に1回の換気が義務づけられているので、せっかく除湿した空気も、1日に12回、完全に外気と入れ替わります。なので、2,231[g]の12倍、つまり26.8[kg]の水蒸気を1日に吸収できなければなりません。
こんな風に吸収すべき水蒸気の量を1日ごとに計算し、それを6月16日から9月15日まで合計すると、これだけの水分を吸収する能力が必要という計算になります。

余分な水分量(3ヶ月間の合計) : 1,852[kg]


単位が[kg]になっているのはタイプミスではありません。[グラム]ではなく[キログラム]です。つまり1.85[トン]です。風呂の浴槽10杯分です。

住宅業界では、「木には調湿能力があるから木造住宅は快適」とか、「珪藻土などの自然素材は調湿能力が‥(以下略)」という宣伝文句を良く目にしますが、2トン近い水を蓄えられる木材や珪藻土があったら教えて欲しいものです。(勿論、ものすごく大量にあれば十分な調湿能力を持つわけですが、問題は40坪の一般的な住宅にそれ程の量が使われているのか? 使われているとして、調湿に効力を発揮する場所に使われているのか? です。室内の空気に触れない場所に使われていても意味がないので。) こういう計算をすると、その手の宣伝文句が如何にアテにならないかがよく分かります。「調湿能力がある」という言葉自体は嘘ではないだけに、始末に負えません。

なお、全熱交換型の換気装置を備えていれば、水蒸気の進入をある程度防げるので、上記の「余分な水蒸気量」はぐっと減らせます。例えば一条工務店ロスガード90は湿度交換効率70%を謳っていますし、FASの家の全熱交換システムもFAS本部に質問したところ「エンタルピーで70%の交換効率」だそうです。エンタルピーとはまた難しい言葉ですが、ここでは「湿度交換効率が70%に近い」と考えて大きな間違いはありません。
というわけで、換気によって進入する水蒸気のうち70%を除去できるとすれば、前述の余分な水蒸気量は以下のように減らせます。

余分な水分量(3ヶ月間の合計) : 555 [kg](但し湿度交換効率70%の全熱交換換気の場合)


随分少なくなりました。と言っても、依然として膨大な量ですが。

以上は、「夏の間中の湿度を全て蓄える」為の必要能力です。(冬についての計算は割愛しますが、同程度の規模になるでしょう。)
一方、「数日程度なら快適な湿度を保つことが出来る」為の能力はどのくらいでしょうか?(前章の2.の条件の場合です。)
先ほど、8月1日だと1日に26.8[kg]という計算結果を出しましたが、真夏ではなく例えば6月1日なら、1.9[kg]になります。これが5日間続いても水蒸気を吸収し続けられるためには、9.5[kg]の水分を吸収する能力が有ればよいことになります。勿論、全熱交換型換気なら、必要能力は2.85[kg]に減ります。
これなら割と簡単そうですね。一週間でも問題無さそうです。

3.結論

室内の湿度を快適に保つために必要な調湿能力は、保持できる水蒸気の量に換算して下記の通りとなります。

夏の間中、快適な湿度を保つためには

熱交換無しの換気の場合 : 1,852 [kg]
全熱交換換気の場合   : 555 [kg] (湿度交換効率は70%の想定)


春・秋の5日間程度、快適な湿度を保つためには

熱交換無しの換気の場合 : 9.5 [kg]
全熱交換換気の場合   : 2.85 [kg] (湿度交換効率は70%の想定)


なお、どちらの計算も、すきま風はゼロの想定です。C値が悪いと、意図しない換気が発生しますので、上記の数値は大きくなります。特に全熱交換換気を前提にしている場合、熱交換されない換気が発生することになるので、悪化の度合いはかなり大きくなるでしょう。
湿度のコントロールはなかなか大変です。

2010年11月8日追記
1つ書き忘れました。室内の水蒸気は、換気によって屋外から入ってくるもの以外に、住人の汗や呼気に由来するもの、炊事や風呂に由来するものなどがあります。本当に必要な能力というなら、これらを含めないといけませんし、そうすると夏期に必要な湿度の保持能力は上記よりもかなり大きくなります。
ただ、どのくらいかが計算し難い(よく分からない)ので、ここでは詳細には立ち入りません。
ここでは、換気に起因するものを考慮するだけでも途方もない水分保持能力になることを指摘するに留めます。