自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

基礎断熱

「基礎断熱」という言葉(工法)があります。住宅の熱的な快適性にかなり関わる話なのでちょっと考察してみます。

1.基礎断熱って何?

正確な言葉の定義が分からないのですが、どうやら「床暖熱」に対して使われる用語のようです。
つまり、床に断熱材を敷き詰め、1F床下の空間を「屋外」にするのが「床暖熱」で、一方、基礎コンクリートの外側又は内側に断熱を施し、床下空間を「室内」にするのが「基礎断熱」というわけです。

2.基礎断熱の利点は?

一般的に言われるメリットは下記のような感じです。

  • 床下空間を室内環境側に置くので、床下が過剰に湿気ることが無くなり、腐朽菌やシロアリ被害に遭いにくくなる。
  • 1Fの床が底冷えする感じが無くなる。

2つめの項目は、冷静に考えると床暖熱に対するメリットとは言えません。床暖熱でも、きちんと断熱すれば床が底冷えするようなことにはならないからです。例えば一条工務店の夢の家がそういう仕様です。
なので、主としては1つめの項目を利点と認識しておけばよいことになります。

とは言え、腐朽菌やシロアリ被害への対策は、基礎断熱以外にも方法があります。一条工務店がやっている加圧注入とか、あるいは防腐防蟻材を数年ごとに塗布するごく一般的な方法などです。基礎断熱でなければ実現できない性能というわけではありません。

私としては、それとは別の利点を基礎断熱に感じています。但し、その利点が得られるのは、基礎断熱の中でも、一部の工法だけです。

3.基礎断熱のいろいろ

基礎断熱にも何パターンか方法があります。今までに見聞きしたことがあるものとしては、以下のようなものがありました。

(1)基礎の内側に隙間無く断熱材を配置する。

例えばFASの家がこのタイプです。下図の様に断熱されます。緑色のハッチングが断熱材です。
隙間無く施工するために、現場発泡の断熱材が使われることが多いようです。
イメージ 2
 

(2)基礎の内側の外周部のみ断熱材を配置する

桧家住宅がこのタイプです。基礎断熱の場合、床下に進入してくる熱は、多くが基礎外周部からと考えられているようで、その部分だけを断熱するものです。
イメージ 3
上記(1)のFASの家の基礎断熱図も、よく見ると外周基礎の立ち上がり部と、基礎底面部でも外周立ち上がりに近い部分は、断熱材が厚く、外周から遠い部分は薄くなっています。すっぽり断熱するかどうかの違いはあるにせよ、程度問題としては外周を重視していることは共通のようです。

(3)外周基礎の外側に断熱材を配置する

具体的にどのハウスメーカ(工務店)というのは知りませんが、話に聞いたことがあるタイプです。下図。
イメージ 1
ピンク色の部分が基礎用の断熱材です。この方式は、下手にやると断熱材がシロアリの蟻道(進入路)になるそうですが、防蟻材を染み込ませた基礎断熱用の断熱ボードが市販されているので、不可能な方法ではないようです。
この方法では、基礎が断熱ラインの内側に入ってくるのが大きな特徴になります。

(4)外周基礎の外側に断熱材を配置するのに加え、基礎定盤の下にも断熱材を配置する

基礎を断熱ラインの内側に入れることを、より徹底して実施する方法です。下図。
イメージ 4
ピンク色の部分が断熱材です。ぱっと見、断熱材が家の重さに耐えられるのか?という気がしますが、断熱材の種類を選べば軽くクリアできます。例えば、日本外断熱総合研究所(2020/04/19注:サイト主が転職したのか、ウェブサイトが全く別の個人ブログの様な内容に変わっています)では、RC造という極めて重い住宅にこのタイプの基礎断熱を取り入れているようです。
念のために簡単に計算してみましょう。同社のウェブ・サイトではRC造で延べ床面積120[m2]の住宅の質量を180トンと見ています。これが総2階建てとすると1Fの基礎面積は60[m2]。これで180トンを支えるとなると、1[cm2]当たり、300gの荷重がかかる計算です。実際には、最も荷重がかかる基礎フーチングの下には、安全を見て断熱材を配置しないのが普通のようですから、断熱材にかかる荷重はもっと軽くなります(半分くらい?)。これはおおざっぱに言って、「人間が立って乗ってもつぶれない断熱材なら、重いRC造の住宅さえも支えられる」というくらいのイメージです。
勿論、木造ならRC造よりも1桁近く軽いので、楽勝で大丈夫です。

 

4.何のメリットを期待するのか?

では私は何のメリットを基礎断熱に期待するのでしょうか? 鋭い人はもう気づいたでしょうね。
私が期待するのは、基礎コンクリートの熱容量です。

ここ数回、潜熱蓄熱材がどうしたこうしたという話を書いていますが、その話の流れで言うと、基礎という大きな熱容量を持つものを活用しない手はありません。その為には、基礎を断熱ラインの内側に置く必要があり、だから「基礎断熱」なのです。但し、単に「基礎断熱」というだけではダメなのは、既にお分かりの通り。
上記の各種基礎断熱方法で言えば、基礎が断熱ラインの内側にあるのは、(4)が理想的です。(3)はまあ、絶対ダメとは言いませんが、折角やるなら中途半端は良くない気がします。((2)は微妙ですが、断熱ラインの内か外かよく分からないので、あまり熱容量に期待できる状態ではないように感じます。)

5.基礎にどの程度の熱容量が期待できるのか?

延べ床面積120[m2]当たりの総二階建て(延べ床面積当たりの基礎面積が最も小さい)で計算してみます。
ベタ基礎でコンクリートスラブ厚を15cmとすると、コンクリートの体積は下記。

60 × 0.15 = 9 [m3]

上記には基礎の立ち上がり部を含んでいないので、実際にはもっと多くなります。間取りにも依るでしょうが、上記の3割り増しとしてみましょう。つまり、11.7[m3]です。
これに、コンクリートの体積比熱1.9[MJ/m3・K]をかけて、熱容量は下記になります。

11.7 × 1.9 × 1,000,000 = 22.23×10^6 [J/K]

単位をJからkWhに変換して、

22.23×10^6 ÷ 3,600 ÷ 1,000 ≒ 6.2 [kWh/K]

というわけで、延べ床面積120平方メートル(約36坪)総二階建ての住宅の場合、基礎の熱容量は6.2[kWh/K]となりました。
日本外断熱総合研究所では木造の120[m2]の建物では熱容量は5[kWh/K]としていますから、基礎は建物本体よりも大きい(少なく見ても匹敵するレベルの)熱容量を持っていることになります。(同社の5[kWh/K]という見積もりが妥当か?という疑問はありますが。)
熱容量を大きくするために潜熱蓄熱材を使おうと言うくらいなら、基礎だってその目的に使うべきという考えはごく自然です。
 

 

前回の試算では、この大きさの住宅では31[kWh/K]の熱容量が必要と試算しましたが、その内、建物で5[kWh/K]、基礎で6.2[kWh/K]を得られるなら、潜熱蓄熱材は19.8[kWh/K]で済むことになります(それでもかなりの量ですが)。エコジュールで計算すると、2.1トン必要となります。基礎の熱容量を利用しない方法に比べて、潜熱蓄熱材の量を600kg以上も節約できる見込みです。

もっと言ってしまうと、コンクリートスラブをもっと厚く打ってもらえば、熱容量を簡単に上げられます。例えばスラブ厚を15cmから20cmに上げれば、熱容量は1.58[kWh/K]だけ大きくなります。潜熱蓄熱材168kg分に相当します。
基礎だけで必要な熱容量を得ようとすると、結局RC造と同じ重さになってしまうのでさすがにそこまでやるのはどうかと思いますが、多少ならお手軽な改善策と言えるでしょう。

6.おまけ

熱容量を重視しているはずのFASの家で、何故基礎コンクリートの熱容量を活用していないのか分かりませんが、上手くやれば上記のように潜熱蓄熱材の必要量を減らして、効率良く性能を出せる住宅に出来るはずです。
是非同社に活用しない理由を聞いてみたいところです。