FASの家で潜熱蓄熱材を増やす思考実験
FASの家は謳い文句に反して熱容量は不十分と結論づけましたが、一方で床下に潜熱蓄熱材を放り込めば簡単に蓄熱性能を上げられるという特長も持っています。コストの壁はあるにせよ、やろうと思えば出来るのは利点です。
では、どのくらい潜熱蓄熱材を追加すればいいのか、それを計算し、実際に置けそうかどうか考えてみます。
1.必要な潜熱蓄熱材の量は?
以前、潜熱蓄熱材の必要量を概算したことがありますが、そのときはエコジュールという商品を前提にして計算しました。今回はFASの家の標準部材である住友プラステック製のスミターマルで計算します。
カタログに書かれている数字の内、以下を計算に使用します。
- スミターマルのパネル1枚あたり、125kJの蓄熱量(15~25℃)。
- 相転移温度範囲は19~23℃の4℃の幅を持つ。
15~25℃の10℃の範囲で125kJの蓄熱量となっていますが、潜熱蓄熱材であることを踏まえると、その蓄熱量のほぼ全ては相転移温度範囲である4℃の間で発揮されていると考えて大きな間違いはないでしょう。となると、パネル1枚あたりの比熱は31.25[kJ/K]です。単位を[Wh/K]に変換して、8.68[Wh/K]です。
一方、必要な熱容量は以前の計算で31[kWh/K]との結論だったので、これを使います。このうち5[kWh/K]は建物の躯体でまかなえるとすると、潜熱蓄熱材で担当するのは26[kWh/K]分です。
これを前述のスミターマルでまかなうとすると、
というわけで、約3,000枚のスミターマルパネルが必要という結論になりました。
2.床下に置ける?
スミターマルのパネルは、6枚敷くとほぼ畳1枚分になる寸法ですから、3,000枚となると、畳500枚分、250坪の床がないと敷き詰めることが出来ません。これはあくまでも延床面積40坪の家での必要量ですから、全く絶望です。
勿論、上記は平らに並べた場合の話。
数が多いなら、本立てに立てるようにしてやればずっと多くのパネルを並べられます。パネルの短辺長は27cmですから、狭い床下でも立てて並べることは出来ます。
立てる場合、隙間無く並べるとパネルとパネルの間を空気が通らなくなり、空気との間の熱交換が上手く行かなくなりますから、立てるパネルとパネルの間にはそれなりに隙間を空けておかねばなりません。ここでは10cmピッチで並べることにしてみます。すると、畳1枚の面積で18枚のスミターマルパネルを並べられます。40坪の住宅の場合、1Fが20坪だとして360枚です。実際には床下の基礎形状の都合もありますから、こんなには置けないでしょうが。
まだまだ全然置き場が足りません。
空気の通りが悪くなる気がしますが、5cmピッチにすれば720枚。この辺が限界でしょうかね。
3.他に置けるところは?
簡単に熱容量を増やせるのが特長と書いたものの、必要なだけ置こうとすると、置き場が結局足りない様です。
他に置き場はないかというと、1Fの天井裏(2Fの床下)でしょうか。木造軸組ならそれなりに空間がありますし、FASの家では壁体内気流の通り道になっているので、ちゃんと機能します。1F床下と同じく720枚置けることにしておきます。(もっとも、720枚のスミターマルパネルは1.6トンの重さがありますが。)
更に、2Fの天井裏、特殊エアコンなどが鎮座する空間にも置けることにしてみましょう。ここにも720枚。
ここまでで2,160枚。3,000枚には未だ未だ届きませんが、この辺が限界でしょうか。
壁の中にも置いてみたいところですが、もともと気流の通路になっている場所であり、天井裏などと違って狭いので、スミターマルパネルを置くと気流が上手く流れなくなるような気がします。場所が場所だけに「置くだけ」というわけにもいきませんし。
と言うわけで、必要量のスミターマルパネルを置くことは不可能という結論になりました。
4.ちなみに
ちなみに、必要な31[kWh/K]のうち、建物躯体で5[kWh/K]としていますが、基礎スラブをベタ基礎で20cm厚とし、断熱ラインの内側に持ってくれば、それだけで更に7.78[kWh/K]くらい上乗せされます。
この場合、スミターマルパネルの必要量は18.22[kWh/K]となり、枚数換算で2,100枚にまで減ります。
これなら上記の試算でもぎりぎり置けることになります。(とは言え、現実にはかなり無理がありそうですけど。)
うーん、熱容量を上げるのは本当に難しいですね。