自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

換気量と二酸化炭素濃度

FASの家では、換気回数を減らしても良いと言う特殊認定を取ろうとしているようですが(こちらの記事の末尾に記載)ようですが、それに関してちょっと気になったのが二酸化炭素濃度です。24時間換気は、そもそもシックハウス症候群対策として法律で義務づけられたのが発端らしいのですが、もう1つ、人間の健康面で言うと二酸化炭素濃度の点でも意味があるように思います。
例えば、開放型のストーブやファンヒータを使う場合には2時間おきに換気しなさいなどと言われますが、それと同じような話です。高気密住宅では燃焼によって二酸化炭素濃度が上がりやすい性質を持ちます。その為開放型の燃焼機器は使えないことになっていますから、そもそも問題にはならないのですが、人間が呼吸することによる二酸化炭素の排出は無くせないので何らかの配慮が必要です。
実際、私の経験ですが、職場の狭い会議室に何人も入っていると、1~2時間後には空気が悪くなるのが明らかに体感できます。換気扇を回していればいいんですが、寒いからとスイッチを入れなかったりするとたまりません。まあ、これは二酸化炭素濃度ではなく、体臭がこもっているだけなんですが、換気のない狭い空間の怖さを垣間見せてくれる事例ではあります。
今回はその点について考えてみましょう。

1.二酸化炭素濃度の許容値

まず、二酸化炭素の濃度はどの程度まで許容できるでしょうか。
二酸化炭素自体に毒性はないとされていますが、空気中の二酸化炭素濃度が上がりすぎると、人間は死にます。(塩だって、毒性は無いどころか人体に必須の物質ですが、一度に大量に摂取すると死にますしね。)
Wikipediaによれば、二酸化炭素濃度が3~4%以上になると頭痛などが始まるそうで、このあたりから明確な健康被害が出てきます。もう少し低い濃度でも、「激しい運動をするのに支障がある」などの問題はあるようです。
当然ながら、住宅の室内はそれらよりずっと良い環境が必要で、建築基準法では住宅内の二酸化炭素濃度を0.1%以下(体積比)にすべしとの指針があるようです。(勿論これは、十分な余裕を見込んだ数字のハズです。)
というわけで、以下では「0.1%以下」という条件を満足するように考えてみます。

ちなみに大気の二酸化炭素濃度は体積比で0.032%だそうです(Wikipediaより。質量比では0.04%)。
建築基準法では、その2.5~3倍くらいまでは何の問題もないと見なしているわけですね。

2.どの様に換気するか?

次に、換気の方法について考えます。この考え方で、二酸化炭素排出の有利・不利が変わってきます。
人間の口元に排気装置のパイプを近づけて、吐いた息をその場で吸い込んで屋外に排出すれば、僅かな換気量で二酸化炭素を完全に排出できます(シュノーケルのようなものをくわえる方法でも同様の効果です)。二酸化炭素の一番濃いところを狙って換気するのですから、換気効率は最高ですが、快適性は最低です。
ちなみにこの場合の換気量は、「大人の呼吸は1回あたり500mL、15~17回/分」というデータから計算して、大人1人かつ1時間あたりで0.45~0.51[m3]になります。4人住んでいれば、1時間に2立方メートルくらいですね。これは安静時なので、実際にはもっと多くなるとは言え、「換気回数0.5回/時間」という法律で決められた換気量(延床面積40坪として、1時間あたり158[m3])に比べたら、微々たるものです。
ま、あくまでも思考実験としてはそうなる、ということです。

実際に可能な換気方法はと言うと、人の口や鼻から出た二酸化炭素の濃い空気が部屋の中に広がっていき、薄まったところを換気することになります。当然、薄まれば薄まるほど必要な換気量は増えることになります。
一番不利な条件は、「吐いた息が家中に広がって、完全に薄まってしまう」という条件ですね。そこまで極端なことにはならないかも知れませんが、現実の条件にそこそこ近いような気もします。
以下ではこの最悪条件で計算してみましょう。

3.排出できる二酸化炭素の量は?

では、二酸化炭素の排出量はどのくらいになるでしょうか。
当たり前ですが、換気量が同じなら、室内の二酸化炭素濃度が濃いほど、排出できる二酸化炭素の量は増えます。なので、二酸化炭素排出能力の上限は、「室内の二酸化炭素濃度が最も濃くなったとき」です。ここでは0.1%までの濃度を許容することにしていますから、最大排出能力になるのもその時です。
濃度0.1%の二酸化炭素を屋外に出して、代わりに濃度0.032%の外気を導入するのですから、差し引き0.068%だけ二酸化炭素を排出できます。

例えば、法律で決められた「0.5回/時間」のペースで換気する場合で試算します。延床面積40坪、天井高2.4mの場合で、1日あたり、

40 × 3.3 × 2.4 × 12 ×0.00068 ≒ 2.59 [m3]


二酸化炭素を屋外に排出できます。重さで言うと、密度1.78[kg/m3]をかけて4.61kgです。

4.二酸化炭素の発生量は?

一方、発生する二酸化炭素の量はどの程度になるでしょう。
住んでいる人数や、在宅時間の長短でかなり変わってしまいますが、ここでは以下のように仮定します。

  • 住人は4人。全員大人。
  • 2人は常時在宅、残りの2人は1日の半分のみ在宅。

また、人間の呼気に含まれる二酸化炭素は、安静時で1.32%、極軽作業時で1.32~2.42%、軽作業時で2.42~3.52%、中等作業時で3.52~5.72%、重作業時で5.72~9.02%と言うデータを見つけました。ここではこれを使用します。但し、この内の0.032%はもともとの空気に含まれていたものなので、呼吸によって増えたわけではありませんから、その分は差し引きます。家にいる時間のうち、8時間を安静時(睡眠)として1.288%(=1.32-0.032)、それ以外を軽作業として3.488%(=3.52-0.032)と仮定します。
なお、1時間あたりの呼吸量は、先に出てきた通り、0.51[m3](=510L)とします。
すると、1日あたりの二酸化炭素の総排出量は下記になります。

安静時間         : 8時間 × 4人 = 32時間
安静時二酸化炭素発生量  : 0.51 × 32 × 0.01288 ≒ 0.21 [m3]
軽作業時間        : 16時間 × 2人 + 4時間 × 2人 = 40時間
軽作業時二酸化炭素発生量 : 0.51 × 40 × 0.03488 ≒ 0.712 [m3]
合計二酸化炭素発生量   : 0.21 + 0.712 = 0.922 [m3](重さは1.64kg)


と言うわけで、二酸化炭素の発生量は1日あたり0.922[m3](1.64kg)となりました。

5.換気は(現在の法律の規定に比べて)どのくらい減らせる?

法定換気量の時の二酸化炭素の最大排出能力2.59[m3](4.16kg)と、実際の二酸化炭素の発生量0.922[m3]立方メートル(1.64kg)を比較すると、2.81倍の余裕があることが分かりました。
逆に言うと、換気のペースを1/2.81まで減らしても大丈夫と言えます(勿論、法律上の制約は別問題としてです)。
つまり0.178回/時です。

6.すると?

前回の試算では、換気のペースを1/5くらいまで落とせれば、FASの家では夏の間の湿度を吸収し続けることが出来る、という結果でしたが、残念ながら、二酸化炭素濃度の観点で、1/2.81までしか落とせません。
足りない分は、スカットール(シリカゲル)を1.78倍に増量するか、換気システムの熱交換損失を1/1.78にする(現状の熱交換効率70%を、83%に向上する)のどちらかで対応せざるを得ません。手っ取り早いのはスカットールの増量でしょうか。

もっとも、それが絶対条件かというと、ちょっと突っ込みどころはあるように思います。
今回の前提とした二酸化炭素濃度=0.1%は、それを超えたらたちまち健康被害が出るという値ではありませんから、それほど神経質にならなくても良いかも知れません(勿論、これも法律上の制約はありますけど)。実際、例えば日本産業衛生学会では許容濃度を0.5%としているようです。まあ、職場と自宅を同じ基準にするのはちょっと乱暴かも知れませんが、0.5%でも特段の問題はない証拠とは言えるでしょう。
0.5%を許容するなら、二酸化炭素の最大排出能力は5倍になりますから、換気は更に1/5にできます。先ほどの1/2.81と合わせると、換気のペースは(現在の法律である0.5回/時に対して)1/14まで落とせる計算です。これならFASの家は夏の間中、室内の余分な湿気を吸収し続けることが出来ますね。

実際に「換気回数を減らす特別申請」が通るかどうか(お役人が二酸化炭素濃度の観点からも検討するのかどうか分かりませんが)、興味深く注視していくことにしましょう。