自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

熱容量と快適性-中編-

-前編から続く-

3.熱容量の大きな建物の温度変化

前編で使った「湖に沈めた水瓶」のたとえ話において、建物の熱容量が大きいというのは下図のように表されます。

イメージ 1


水瓶が大きくなり、今までと同じだけの水の出入りがあっても、水瓶の中の水位(室温)の変化は起こり難くなります。
逆に建物の熱容量が小さい場合は下図です。

イメージ 2


水の出入りする量が同じであっても、水瓶の中の水位は変動し易くなります。(この画はかなり極端に書いていますが。)

気を付けねばならないのは、Q値が同じであれば、建物から逃げる熱の量は変わらないので、空調機稼働率は変わらず、従って空調費も変わらないと言うことです。
にも関わらず、熱容量が大きい方が快適だと主張するのは、2つ理由があります。
1つめは室内の温度変化の速さに違いがあるためです。

一般に空調設備は温度センサーを持っており、そのセンサーの計測値が設定温度になるように制御を行います。このとき、センサー値を厳密に設定温度に合わせようとすると、機器が極めて細かいON/OFFを繰り返すようになるので、機械の動作上不都合が生じます。例えば設定値が27℃だったとして、

冷房してセンサーの値が27.0℃になったので、一旦運転を停止。
 ↓
数秒後にセンサーの値が27.05℃になったので運転を再開。
 ↓
再開後、数秒後にセンサーの値が27.0℃になったので運転を停止。
 ↓
(繰り返し)

こういう動作は機器に良くないですし、動作したり止まったりでは人間も不快(不安)になるでしょう。なので、実際の機器では意図的に制御の遊びを大きめに取り、やや緩慢な制御をしています。上記の例で言えば、

冷房してセンサーの値が26.5℃になったので、一旦運転を停止。
 ↓
数分後にセンサーの値が27.5℃になったので運転を再開。
 ↓
再開後、数分後にセンサーの値が26.5℃になったので運転を停止。
 ↓
(繰り返し)

こんな感じです。この例では設定値に対して±0.5℃の制御をしていますが、実際の市販エアコンで制御の遊び幅がどのくらいかは分かりません(メーカによっても違う可能性があります)。
空調機器の制御がこんな感じという前提において、熱容量の大きな建物と小さな建物でどういう違いが出てくるかというと、

熱容量の大きな建物 : 室温の変化が緩慢なので、空調機のON/OFFサイクルが長くなる
熱容量の小さな建物 : 室温の変化が速いので、空調機のON/OFFサイクルが短くなる

ということになります。この短いON/OFFサイクルが、室内に居る人にとって不快に感じられる可能性があると考えています。
特にエアコンの場合、一旦停止すると再始動までに数分のインターバルが必要なので(だったと思うんですが、最近のエアコンは違うかな?)、停止後室温が上がって「ONしたい」と判断しても、少しの間再始動できないことがあります。当然、インターバルが終わって再始動したときには室温が上がりすぎていますから、強めの動作で遅れを取り戻そうとします。こうなると、室温の変化幅が大きくなってしまい、それ自体不快の原因になりますし、エアコンの強動作が増えることもあって、快適性は損なわれる方向になります。

もっとも、以上の点は空調機の種別によっても変わってくるでしょう。例えば蓄熱式暖房機なら、そもそも温度センサによる運転制御をしていませんから、上記のようなことにはなりません。エアコンの場合に限った注意点と言えるかも知れません。とは言え、暖房はともかく冷房は事実上エアコンしかありませんから、夏は誰もが行き当たる問題になるはずです。

4.輻射熱の影響

建物の熱容量が大きいと快適性が増すと考えている2つ目の理由は(こちらが理由としては大きいのですが)、輻射熱による快適性の向上が期待できるからです。輻射熱での冷暖房が快適というのは、ヘーベルハウスの見学会のときにも書きましたが、話としては耳にしたことがある方も多いでしょう。

そもそも輻射熱とは何なのかというと、電磁波による熱エネルギーのやりとりのことです。この場合の電磁波とは赤外線のことです(特に遠赤外線)。
そもそもほとんどの物質は、その温度に応じた赤外線を周囲に放射しています。ここで言う「ほとんどの物質」には人体も含まれます。温度が高ければ多量の赤外線を、低ければ僅かな赤外線を出しているわけです。
数年前の豚インフルエンザ騒ぎのときに、空港で発熱している乗客を見つけるためにサーモビューワという測定器が使われていました。あれは人体から放出されている赤外線の量を測定し、そこから体温を逆算するという仕組みのモノです。人体に限らず、住宅の壁や床、天井なども同様に赤外線を放出しています。

室内に居るとき、人は全身から赤外線の形で熱エネルギーを放出しています。それと同時に住宅の壁や床、天井などから放出された赤外線を浴びて吸収します。放出するエネルギーと吸収するエネルギーのバランスが取れていることで、心地良い状態が成立しています。
夏にトンネルや洞窟に入ると涼しく感じる最大の理由は、周囲の岩盤の温度が低く、赤外線の放射が少ないからです。人体から赤外線を出す一方で、受け取る方が少ないので、赤外線のバランスが「歳出超過」になって、涼しく感じるわけです。
冬に寒い部屋でエアコンを付けても、壁や床が暖まるまでは寒々しい感じが抜けませんが、これも同じ理由です。

この輻射熱を利用した快適環境を実現するためには、壁や床、天井が赤外線を十分に放射できるだけの熱エネルギーを蓄えていなければなりません。その蓄えを源として赤外線が放射されますので。
そしてその為には、建物の熱容量が大きい必要があるのです。

-後編に続く-