自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

熱容量と快適性-前編-

住宅の温熱環境を快適にするために、高い断熱性(小さなQ値)が必要という話はあちこちで述べられており、概ね常識になっていると言っても良さそうです。

但し、室内を快適にするためにはもう1つ重要な項目が抜けていると私は考えています。それは建物の熱容量です。熱容量とは熱を蓄える性質・能力のことですが、これが快適性に大きく関わるというのは私のオリジナルな主張ではありません。例えばこちらのサイト(2020/04/19注:サイト主が転職したのか、ウェブサイトが全く別の個人ブログの様な内容に変わっています)では、熱容量の大きな鉄筋コンクリートの建物に外断熱を組み合わせることによって、極めて快適な温熱環境が実現できることを詳細に述べています。またこちらのサイト(2020/04/26注:リンク切れ)では壁に杉の無垢材を使うという珍しい工法を紹介していますが、その利点として熱容量を大きくできることを挙げています。

とは言え、熱容量が重要な役目を担うというのは、断熱性の重要性に比べると到底「常識になっている」とは言い難い認知度の低さです。
ここでは、断熱性と同じくらい重要な項目として、熱容量について考えてみましょう。

1.熱容量とは

熱容量とは熱を蓄える性質・能力のこと、と言っても、ピンと来ない人も多いでしょう。噛み砕いて言うと、以下のようなことです。

どんな物質であれ、温度を変化させるためには熱を与えたり奪ったりしなければなりません。
ここにある物質があって、その温度を1℃変化させるために与えたり奪ったりしなければならない熱の量が多いとき、その物質は熱容量が大きいと言います。逆に、少し熱を与えたり奪ったりするだけで大きく温度変化する物質ならば、熱容量が小さいと言うわけです。

同じ種類の物質でも、量がたくさんあれば温度変化させるのに必要な熱の量は多くなります(当たり前ですね)。だから、たくさんあればあるほど熱容量は大きくなります。量が2倍なら熱容量も2倍になります。

一方、物質の種類による熱容量の違い(例えば水と空気の熱容量の違い)を比較する場合には、「同じ量だったらどうか?」で判断しないと、正しい比較になりません。量を一定にした場合の熱容量を比熱と言い、これは物質に固有の値になります。なお決められた量と言っても、重さで「1gあたり」のこともあれば、体積で「1[cm3]あたり」のこともあります。どちらで比較するかは、場面に応じて適切な方で考えることになります。どちらも間違いではありません。


結局、熱容量は比熱と物質の量の掛け算で決まりますので、比熱の高い物質が大量にあれば、熱容量はぐんと大きくなります。

次章以降では、建物の熱容量が大きいと室内は快適になる、と言う話をしていきます。

2.熱容量が大きいと何故快適なのか?

建物の熱容量が大きいと言うことは、建物の温度を変化させるために大量の熱を与えたり奪ったりする必要があると言うことです。逆に言うと、少しくらい熱を与えても(又は奪っても)あまり建物の温度は変化しなくなります
断熱性の高い建物は室内の温度が変わり難くて快適だ、という話がありますが、建物の熱容量が大きい事によっても全く同じ効果を得られるわけです。当然、快適になります。

但し、ここでは1つ重要な前提条件があります。
快適性を高くするためには単に熱容量が大きいだけではダメで、断熱材で区切られた断熱ラインの内側の熱容量が大きくなければ、快適性は向上しないということです。いくら熱容量の高いものがあっても、断熱ラインの外側では快適性には全く効きません。
何故かというと、断熱ラインの外側の物質(例えば外壁材)には、「大気」という巨大な熱容量を持つものが接しているからです。いくら建物の熱容量が大きくても、大気の熱容量に比べればゴミ同然です。何しろ大気の量はあまりにも膨大です。建物の熱容量が大きければ「少しくらい」熱を与えてもあまり温度は変わらないとは言え、無尽蔵とも言える大気から無尽蔵に熱が与えられれば(又は奪われれば)簡単に温度は変わってしまいます。
ですので、先ず断熱材でしっかりと大気の熱と遮断し、熱の出入りを「少しくらい」にした上で、断熱より内側の熱容量が大きくて初めて室内は快適になるのです。

これを「湖に沈めた水瓶」のたとえ話で考えてみましょう。下図です。

イメージ 1


湖に水瓶が沈めてあります。水は熱です。水瓶には水(熱)が入っており、その量で瓶の中の水位(室温)が決まります。水瓶の中にたくさんの水(熱)が入っていれば水位(室温)は高くなります。
水瓶の外側にある水は大気の熱です。水瓶に比べると無尽蔵とも言える量の水(熱)をたたえています。その水位は外気温です。この図では水瓶の中の水位(室温)が外の水位(外気温)よりも高いので、冬の状態です。
水瓶は建物の断熱材で、水瓶の中と外で水の出入り(=熱の出入り)が起きないようにしています。しかしこの水瓶にはスポンジのごとく無数の小さな穴が空いていて、水位の差(室温と外気温の差)に応じて水が漏れ出していきます。水の出入りを完全には遮断できていないのです。
水位の差が大きければ水の漏れ出す勢いは大きくなりますし、逆に内と外の水位が同じであれば、水の出入りは発生しません。
漏れ出す水(熱)を補って、水瓶の中の水位(室温)を一定に保つために、水道(暖房機器)が設けられています。漏れだした水(熱)の分だけ熱を発生させて、中の水位を一定にします。

このイメージ図によって、以下のような性質を理解できると思います。

  • 水瓶の穴が小さければ外に漏れる水の勢いを減らせるので、瓶の中の水位を一定に保ちやすい(断熱性が高ければ屋外に熱が逃げる勢いを減らせるので、室温を一定に保ちやすい)。
  • 水瓶の穴が同じでも、水瓶の中と外の水位の差が大きければ、漏れ出す水の勢いは増える(断熱性が同じでも、室温と外気温の差が大きければ、屋外に熱が逃げる勢いは大きくなる)。
  • 水瓶の穴の大きさと内外の水位の差によって、水道から出さねばならない水のペースが決まる(断熱性及び室温と外気温の差によって、暖房機器の稼働するペースが決まる)。

これらは「断熱性が高いと室内は快適」という話です。
では、このたとえ話において、熱容量が大きいというのは、どの様に表現できるのでしょうか。

-中編に続く-