自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

熱容量と快適性-後編-

-中編から続く-

5.空調機の微弱運転化

これは純粋な快適性とはちょっと異なりますが、空調機がピーク運転をしなくなるので、間接的に快適性も高まる、‥‥かも知れない(使う空調機器の種類次第ですね)と言う話です。
以下では熱容量の小さな建物と大きな建物の熱的な挙動の違いをあくまでも模式的に表現しています。もっともらしく、具体的な外気温や室温が書いてありますが、数字自体はでっち上げたものです。あくまでも「雰囲気」を感じるための説明です。
なお、この説明では以下の前提を置いています。

  • 熱容量の小さな建物と大きな建物で、Q値は同じ。熱容量だけが異なる。
  • どちらの場合も換気はしていない。断熱で頑張っているだけ。
  • 外気温は2009年8月の東京の平均最高気温、平均気温、平均最低気温になっている(もっともらしさを出すために気象庁のウェブ・サイトから数字を引っ張ってきました)。


-夏のとある1日の、外気温と室温の挙動(あくまでもイメージ)-

イメージ 1
外気温と室温が一致したこの状態からスタートする。
左側が熱容量の小さな建物、右側が大きな建物。
26.6℃というのは、8月の東京の平均気温。


イメージ 5
外気温が上がり始めた状態。
室温は未だ変化していないが、気温と室温の差により、屋外から熱が漏れ込み始めた。


イメージ 6
室温が徐々に上がり始めた状態。
熱容量の大きな建物は温度がほとんど上がらない。


イメージ 7
昼過ぎの状態。
外気が最高温度に達した。
室温は未だ外気温より低く、温度上昇が続いている。
熱容量の大きな建物の方は、温度の上がり幅が非常に小さい。
 

イメージ 8
外気温が下がり始めて、上がり続けていた熱容量の小さな建物の室温と同じになった。
これ以降、熱容量の小さな建物の室温は下がり始める。
熱容量の大きな建物の室温は未だ上昇中。
 

イメージ 9
更に外気温が下がっていき、熱容量の大きな建物の室温と同じになった。
こちらもこれ以降、室温は下がり始める。


イメージ 10
外気温が引き続き低下。
室温も下がり続ける。


イメージ 11
夜明け直前、外気が最低温度に到達。
室温はどちらも未だ低下中。


イメージ 2
上がり始めた外気温が熱容量の小さな建物の室温と同じになった。
これ以降、この建物の室温は上がり始める。


イメージ 4
 更に外気温が上昇し、下がり続けていた熱容量の大きな建物の室温と同じになった。
これ以降、こちらの建物の室温も上がり始める。


イメージ 3
外気温が更に上がり、最初の外気温と同じになった。
これ以降、最初に戻って繰り返し。


如何でしょうか? イメージを掴んでいただけたでしょうか?
気象庁のデータによると、外気温は最高30.1℃、最低23.8℃、平均26.6℃ですから、平均値に対して+3.5/-2.8℃だけ変化しています。(平均に対して上下対称でないのは、平均よりも低い時間が長い為に、平均値が低めに引っ張られているからでしょう。)

これに対して、上記のたとえ話における熱容量の小さな建物の室温は、平均に対して+1.9/-1.6℃変化しています。外気温よりも変化幅が小さいのは、しっかり断熱されていてQ値が小さいためです。

一方熱容量の大きな建物では、平均に対して+0.4/-0.3℃と、更に変化幅が小さくなっています。Q値は熱容量の小さな建物と同じであるにも関わらず、何故この様な違いが出るかというと、それが熱容量の違いに起因しています。
たとえ外部から入ってくる(又は出て行く)熱の量が同じでも、熱容量が大きければ、温度の変化は小さくなるのです。

繰り返しますが、室温の変化幅の数字はどちらも私の捏造です。どういう違いが起きるかをイメージし易くするために、もっともらしい数字を当てはめただけのものです。
とは言え、「言われてみればそんな差が出るような気がするな」というくらいの説得力はある数字になっていると思っています。もしもそう思えなかったとしたら、私の説明が下手だからでしょう。

「捏造の数字は要らん。もっと確かなものを見せろ」ということでしたら、最初にご紹介した日本外断熱総合研究所のウェブ・サイト(2020/04/19注:サイト主が転職したのか、ウェブサイトが全く別の個人ブログの様な内容に変わっています)を御覧下さい。ほとんどの数値はシミュレーションですので、実測ではありませんが、上記の私の捏造データとは異なる説得力のある数字を読むことができます。ただ、詳し過ぎて、読み解くのは一苦労ですが。

<ここから何が分かるのか?>
上記の室温変化のイメージから、以下のことが分かります。
  • たとえQ値が同じでも、建物の熱容量(但し断熱ラインの内側)が大きければ、室内の温度変化は小さくできる。
  • 十分に建物の熱容量が大きければ、室温は外気の「平均気温」に安定したまま、ほとんど変化しなくなる。

上記例の熱容量の大きな建物では、室温が26.6℃を平均として、下は26.3℃、上は27.0℃までしか変化しないという結果でした。全く空調をしていないにもかかわらず、この結果です。
どのくらいの室温が快適かは人によって異なりますが、上限でも27.0℃だと、空調無しでも過ごせるのではないでしょうか? (控えめ空調の目安が28℃と言われているくらいですので。)

実はこの主張にはかなり突っ込み所があります。実際に人が住んでいれば、人体からの発熱や、生活に伴う家電機器の動作、調理や入浴などで熱が発生しますので、今回の結果よりも平均室温は上がってしまいます。また、日射しによる室温の上昇は含まれていないので、これも室温を上げる原因になります。
更に、快適感には湿度も大きく関わります。温度が下がっても、湿度が下がらねば快適性の向上には十分とは言えません。
つまり実際問題として、いくら熱容量が大きな建物であっても、エアコン無しで快適、というのはちょっと難しいように感じます。ただ、これらの要因は建物の熱容量の大小に関係なく存在しています。建物の熱容量が大きい場合と小さい場合の「違い」を知るには、今回の思考実験だけで十分でしょう。

空調機器との関係で言えば、熱容量の小さな建物の場合、1日の中の室温変化を抑え込むように空調機器を動かさねばなりません。加えて、生活熱や日射熱を屋外に排出することも空調機器が担わねばなりません。
一方、熱容量が大きければ、日々の室温変化を抑えるのは建物が自然の摂理(物理法則)に従ってやってくれます。空調機器は生活熱や日射熱を排出するために、微弱運転をひたすら続ければよいだけです。熱容量が小さな建物に比べ、エアコンのピーク負荷が下がり、従って「エアコンの風が直接当たる不快感」といったことを感じずに済みます。
中編では輻射熱による快適感に触れましたが、その効果が一日中ほとんど変わらない状態で安定してるわけです。単にQ値が低いことによる快適性とはひと味違った快適性がもたらされることになるのではないでしょうか。

 

6.快適指標

今回考察してきたメカニズムに基づけば、室温の安定性は、Q値に反比例し、建物の熱容量に比例します。つまり、

建物の熱容量 ÷ Q値


を考えれば、それが室温の安定性を表す指標になりそうです。今後はQ値ではなく、この快適指数(と勝手に命名)に着目していくことにします。

なお、今回何度か引き合いに出している日本外断熱総合研究所のウェブ・サイトによると、日射取得係数や生活熱の影響、通風や換気の影響など、室内の温熱環境に関わってくる要因は多岐に渡ります。熱容量とQ値だけという単純なものではありません。
ただ、専門家ではない身にとっては、複雑な要因を一度に理解しようとするのは大変です。先ずはある程度問題を単純化して理解し、その理解が十分に深まった上で、「日射取得係数という新たな要因を考慮する場合には、今まで理解した内容をどの様に修正すれば良いか」という風に、段階的に理解を深めていくのが得策です。ステップ・バイ・ステップというやつです。その意味で、当面は熱容量とQ値という2つの要因だけに単純化した指標に着目していきます。

なお、日本外断熱総合研究所のウェブ・サイトには、以下のような記述があります。

  • 鉄筋コンクリート(RC)外断熱の建物の熱容量は、木造建物の約8倍。
  • 木造建物でも、基礎断熱してベタ基礎のスラブを断熱ラインの内側に持ってくれば、熱容量は何もしない場合の70%増しになる(スラブ厚が25cmの場合)。

このウェブ・サイトを読んでいると、究極の快適性には鉄筋コンクリート構造の外断熱しかあり得ないのではないかという気がしてきます。とは言え、私自身は自分が住む家として鉄筋コンクリートはどうにもイメージが湧きません。しっくり来ないのです。勿論、これは個人的な好み・趣味の問題であって、鉄筋コンクリート住宅の良し悪しとは別の話ですが。
それに加えて、鉄筋コンクリートは価格も高いようです(見積もりを取ったこと無いので、詳細は知りませんが)。

と言うわけで、あえて現在本命として考えている木造住宅という制約の中で、どうやって鉄筋コンクリート外断熱の快適性に近づけていくかを今後は考えてみたいと思います。
Q値を下げる方法はほぼ明らかになっているので、もう一つの「どうやって建物の熱容量を上げるか」に焦点を合わせていきます。
道のりは長そうです。