自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

一条工務店の「夢発電システム」-後編-

-前編から続く-

5.太陽光発電パネルの仕様は?

一条工務店の事実上のグループ会社であるHRD社がアルバックのターンキーシステムを購入してラインを立ち上げたそうです。‥‥と書けば、分かる人にはほぼ全て分かっちゃいますね。
一言で言うと、一条工務店太陽光発電パネルのメーカになった
ということです(正確に言うとグループ企業が、ですが)。

アルバック(ULVAC)というのは半導体製造装置などを作っている日本のメーカで、最近、太陽光発電パネルの製造設備を売り始めました。ターンキーシステムというのは、「太陽光発電パネルを作るために必要な、あらゆる設備・装置を一式丸ごとお売りします」という商売のやり方の事を言います。しかも「装置を使いこなす為の一通りのノウハウも教えますよ」というのが通例ですので、カネさえあれば誰でも太陽光発電パネルメーカになれるのです。勿論、一条工務店でも。
一部ではこの「設備一式を丸ごと買った」という部分が間違って解釈され、「太陽光発電パネルのメーカからラインを買った」などと言われていますが(一条工務店の営業さんもそのような説明をすることがある)、これは事実とは異なります。アルバック太陽光発電パネルを作るための製造装置を作っているメーカであって、太陽光発電パネル自体を作っているわけではありません。
なお、アルバックから設備一式を購入したHRD社はシンガポールの会社なので、製造ラインもシンガポールに設置したものと思われます。

後日注)
よく考えると、一条工務店はフィリピンに大規模な工場を持っていますので、製造ラインはフィリピンに作った可能性が高いですね。HRD社があるシンガポールには大手半導体メーカの工場などがあるので(政府の誘致政策がある)、一条工務店の製造ラインも、と思い込みましたが、日本への部材輸送の都合を考えてもフィリピンが順当でしょう。

 

アルバックが提供しているターンキーシステムは、薄膜シリコン系の太陽光発電パネルを作るためのものです。ですので、夢発電の太陽光発電パネルは当然薄膜シリコン系となります。こちらのプレスリリース(2020/04/27注:リンク切れ)によると、アルバックの設備ではアモルファスシリコンに微結晶シリコンを積層したタンデム型(=薄膜シリコン系としては高効率なもの)が作れるようですが、HRD社が購入したターンキーシステムがこの仕様かどうかは分かりません。タンデム型対応設備のプレスリリース日と夢発電の発売時期から考えると、常識的には1つ古い世代の(つまりタンデム型ではない)装置を買ったと判断するところですが、微妙なタイミングではあります。

薄膜シリコン系は温度上昇時の効率低下が少ないという特長があるため、特に夏場において、むしろ単結晶系や多結晶系よりも発電量が多いとされています。勿論これは「設置kW数が同じ場合」という前提条件での話であり、普通は効率が低いために少ない容量しか設置できず、この条件を満たしません。しかし
夢発電の場合は面積でカバーして同じかそれ以上の容量を設置するので、この条件を満たし、結果的に発電量が結晶系よりも多くなると期待されます(あくまで夏場の話)。

6.ユーザにとってのメリットとデメリット

既に書いた通り、ユーザにとってのメリット(一般的な太陽光発電システムを採用する場合と比べて)は下記です。

  1. 住宅ローンの外側で設置費用を工面できる。
  2. 普通には不可能なほどの大容量を載せられるので、元を取りやすい。

一方、デメリット(一般的な太陽光発電システムを採用する場合と比べて)は下記です。

  1. 費用を住宅ローンに含める場合に比べて月々の支払額が増える。(夢発電のローンは住宅ローンよりも短期で返却する必要があるため、月々の支払いは多めになります。とは言え、それが嫌なら住宅ローンの中に含めれば良いだけの話ですし、住宅ローンに含められない人にとっては、そもそも選択の余地が無いのでデメリットとまでは言えませんが。)
  2. 大容量を載せるために、事実上、片流れ屋根が前提となり、家の外観に制約が生じる。

外観にこだわりのある方にとっては、2は許容できないかも知れませんね。

7.一条工務店にとってのメリットとデメリット

大枚はたいてアルバックから装置一式を買ってまで、太陽光発電パネルを内製するメリットは、主として販促目的にありそうです。

  1. 「どうしても太陽光発電パネルを付けたいけど、ローン枠の制限で付けられないから、一条工務店を止めてローコスト系のメーカにします」という他社への流出客を引き留める。
  2. 他のハウスメーカでは不可能な大容量を載せられるので、元を取るのが容易になり、他社とどちらにするか迷っている顧客の背中を押す「最後の一押し」になり得る。

これらは、先に「新築物件にしか付けられないだろう」と推定した理由の2つめです。一条工務店にとって、既築物件に売るのはメリットが無いからです。

一方のデメリットは、その為にそこまでやるか?というものです。

  1. 高額な装置を購入するため、企業として借金が増える。十分な数の太陽光発電システムを売りさばけなければ、大赤字になり、企業としての根幹にひびが入る。
  2. ターンキーシステムを購入すると、一条工務店だけでは使い切れないほどの太陽光発電パネルが生産できてしまうので、その販路を開拓せねばならず、余分な手間やコストが発生する。

太陽光発電パネルの製造に限らず、半導体や液晶パネルなど、俗に設備産業と言われる業種は最初に大きな借金を抱えるのが特徴です。なので、作ったものが順調に売れれば良いんですが、そうでなければ借金が返せなくなって、返済期限が来た時点で倒産ということになります。一条工務店はその大きなリスクを取った訳です。
リスクを現実の問題にしないためには、作った太陽光パネルをしっかり売りさばかねばなりませんが、これがなかなか難しいのです。と言うのも、この手のものは設備を一通りそろえてしまうと、嫌でも大量の生産能力を持つことになります。大量に生産できてしまうだけに、しっかり売りさばくこと自体が大変なのです。といって生産を抑えると、装置価格の元は取れなくなります。

おおざっぱに言って太陽光発電パネルの生産工場を1つ作ると、年間1[GW]程度の生産能力を持ちます。一条工務店の場合はそれほど手広くやるつもりはないでしょうから、その1/10の小さな工場を作ったとしましょう。年間100[MW]です。(小さい工場は割高なので、その意味では不利なんですけどね。)
これを夢発電で1戸あたり8[kW]載せるとしたら、年間12,500棟分という、とても一条工務店自身では使い切れない量になってしまいます。小さな小さな工場を造ったとしてもこれです。とにかく、余った分をどこかに売らねば、HRD社が倒産してしまいます。(勿論、売れる見込みがあるからこそ工場を造ったんでしょうが。)

厳密に言うと、HRD社は一条工務店の子会社でも関連会社でもないようです。こちらの記事によると、HRD社は一条工務店の創業者の息子さんが99.99%の株を持つ会社とのことなので、一条工務店とは資本関係が全くありません。従って、HRD社が倒産しても、一条工務店までやばくなるわけではないでしょう。
ただ、オーナー経営の中小企業ではオーナー個人と会社とは一体のようなものですから、実際問題として、HRD社の問題が一条工務店に波及しないとは言い切れません。これが一条工務店としての、ひいてはその顧客から見てのデメリットでしょう。

アルバックからどの程度の規模の設備を買ったのか、そこが非常に気になります。

それと、太陽光発電パネルは未だ技術的に枯れたとは言えない代物です。薄膜型も当然同じ状況です。先ほどのタンデム型の実用化を初め、まだ今後もじわじわと効率改善の技術開発が続くでしょう。
普通だと、この手の開発は太陽光発電パネルメーカ自身がやるんですが、一条工務店(HRD社)の場合、そもそもそういう技術開発力が無いからこそターンキーシステムを購入するわけです。なので、装置を購入したら最後、その後の性能向上は有りません。今は良いとして、それで果たして将来の競争力を保てるのか? 「面積で稼ぐからいいんだよ」といつまで言い続けられるのか?
単に性能向上すればいいのであれば、アルバックが代わりに技術開発してくれます。「今度開発したこの装置を追加購入してくれれば、太陽光発電パネルの性能がぐっと向上しまっせ」という、“魅力的な”装置を売ってくれるでしょう(タンデム型の装置もその一つですね)。問題は、そういう少なからぬ金額の追加投資を一条工務店としてどこまでやり続けるのか、です。
セオリーから言えば、最新の設備にどんどん入れ替えつつ商売を続けるのが正しいんですが、それはあくまでも
太陽光発電パネルで大規模に商売する“普通の”場合に限られます。一条工務店の場合、設備は導入したけど大規模に太陽光発電パネルの商売をやるつもりはない、という中途半端な状態でしょう。装置産業ではこういう中途半端が一番良くないんですよね。

一条工務店がどのように今後の舵取りをしていくのか、非常に難しく、また興味深い問題です。

8.終わりに

そんなわけで、功罪ありますが、私は夢発電はなかなか良い商品だと思います。

  • とにかく大容量を載せるのが有利という現在の状況を活かすための工夫がある。結果、効率面で不利な薄膜型でありながら、一般的には不可能なほどの大容量を載せられる。
  • 屋根材化することで屋根材分の材料費・施工費を節約し、その分だけ安価なシステムとしている。
  • ローン枠の制約で太陽光発電パネルを諦めざるを得なかった人にとって、ある程度の救済策となり得る。
  • 太陽光発電パネル自体はアルバックのターンキーシステムによるものであり、一定レベル以上の品質は期待できる。
  • 薄膜型なので、夏季の温度上昇による効率低下が少なく、実効発電量が多い(これは期待が半分)。

デメリットと言うべきかは微妙ですが、気にしておくべき注意点として、

  • 大容量を載せる方法がやや無理矢理で、屋根形状などのデザイン面に制約がでる。
  • 住宅ローンの外枠で載せられるとは言え、支払いは確実に発生する。しかも住宅ローンよりも短期で返すので、月々の負担が大きめ。
  • 屋根材としての耐久性は実績が無く、「大丈夫」という一条工務店の言葉を信じるしかない。
  • 大きな設備投資をした一条工務店の経営上のリスク。

特に最後の項目が大きな不安要因ではありますが、要するに作った分がしっかり売れれば良いんですから、ここは1つ、既存の一条工務店物件にも売ることにしたらどうでしょう? (いや、売らないというのがそもそも私の推定に過ぎないんですが。)
新築物件と違って1棟あたりの容量は小さいですし、
既存の瓦やスレートの上に設置できるよう固定方法に工夫も必要ですが、母数が多いので、数がさばける可能性があります。
一条工務店の既築オーナにとっても、一条工務店が倒産するリスクを軽減できるとなれば、悪い話ではないでしょう。何れにしても政府の補助金があるうちが花です。

個人的に、こういった新しい試みにはエールを送りたいと思います。
頑張れ一条工務店


補足
2010年8月14日現在、一条工務店のウェブ・サイト夢発電の特集ページ(2020/04/27注:リンク切れを修正。当時とはコンテンツが変わっています)ができていました。
一部のコンテンツは"Coming soon"になっていますが、既に掲載されている部分に関しては、私が書いた内容と整合しているようです。
今後徐々に一条工務店自身からも情報開示が進むものと思われます。