自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

床暖の利害得失

今回は暖房機器としての床暖の利害得失を考えてみます。
最近は、立場によって(つまり前提とする建物の性能によって)良し悪しの評価が異なる気がしてきました。

1.加熱手段としての良否

快適性の観点から言うと、輻射による加熱がベストです。これに異を唱える人はあまり居ないでしょう。その意味において、床暖は理想的な暖房の条件を満たしています。私が床暖に憬れを感じる理由がこれです。

一方で、輻射ではなく伝導による加熱を主眼にしている様な床暖も、世の中にはあるらしいという事を知りました。と言うか、世の中の主流はこちらのようです。これは、「床に触れると暖かい」ということによって暖を取るものです。ホットカーペット型と言っていいでしょう。ガス温水式などの、床面温度が比較的高いタイプのものは、どちらかというとこちらに分類されるようです。触れていないと暖が取れないので、それ単独で十分な暖房にはならない様で、主暖房は別に必要なことが多いです。
私が良く参考にしている日本外断熱総合研究所(2020/04/19注:サイト主が転職したのか、ウェブサイトが全く別の個人ブログの様な内容に変わっています)のウェブ・サイトには、「床暖は断熱性の悪い建物に適した暖房方式だと考えている」との記述がありましたが、それはこのタイプの床暖を念頭に置いてのことでしょう。

輻射主体での暖房として機能させるためには、先ず建物の断熱性能が十分に高くなければなりません。その上で、広い面積に設置されている必要があります。現実にはリビングの一部にだけ設置するケースが多い様ですが、それだとその場所にいなければ輻射を得られません。部屋の一部しか暖かくないのでは都合が悪いので、補助暖房(というより、そちらが主?)が不可欠になります。

理想的な暖房手段としての床暖になっているのは、実は一条工務店の全館床暖房くらいなのかも知れません。

 

2.熱源としての良否

最近は床暖と言っても熱源がヒートポンプのものもありますので、エアコンに比べて特にエネルギー効率の悪さを気にする必要はなくなりました。十分に合格ラインと言っていいでしょう。
ただ、細かい話をすれば、エアコンよりも効率で見劣りするのは否めません。床暖用のヒートポンプは一般的に特定のメーカのものしか使えず、従ってあまり競争に晒されていないため、性能向上ペースが今ひとつです。エアコンには少々水を空けられていると言わざるを得ません。

可能性の話だけをするなら、太陽熱温水器と温水式床暖房と組み合わせれば、ポンプの電気代だけで暖房がまかなえるのにと思うのですが、曇りや雨の日に備えた熱源が結局必要なので、装置価格としては太陽熱温水器の分だけ単純に高くなり、元を取るのが難しくなるのかも知れません。
太陽熱温水器の価格は、工事費込みで30~40万円くらいでしょうか。床暖と組み合わせるには強制循環式の必要がありますから、もう少し高いかも知れません。50万円としてみましょう。
一方、これで節約できる暖房費はどのくらいか? 高断熱の建物で暖房費が月に1万円だとして、そのうち太陽熱温水器で60%くらいをまかなえるとすると、月に6千円の節約。暖房が必要なのは年間5ヶ月くらいなので、年に3万円の節約。50万円の元を取るには、17年近くかかります。うーん、これだとちょっと苦しいですね。
ただ、太陽熱温水器を設置する場合は、床暖だけでなく風呂や炊事用の給湯も兼ねるでしょうから、その効果も加味すれば元が取れるのはもっと短いかも知れません。
最大のネックは、そう言う仕様の装置が世の中にあるかどうかでしょうね。

 

3.費用の良否

本当は費用対効果で考えるべきですが、効果の方は人によって判断基準も違うでしょうから、費用だけ。

これが床暖の最大の欠点でしょう。
以前桧家住宅で聞いた際には、リビングの一部、8畳程度に設置する場合で60万円くらいかなとのことでした。設備メーカにきちんと見積もりを取ったわけではないので、金額の精度は荒いですが、大きくは違わないでしょう。これが平均的な金額です。
エアコンなら家中に設置できる費用を出していながら、リビングの一部しか暖房できないわけですから、これは相当に割高と言わざるを得ません。まあ、それでさえも設置して良かったとの声を聞くくらいですから、快適性まで含めると割高と言い切るのはちょっと抵抗がありますが。

そう考えると、一条工務店の床暖は突出した存在であると言えます。押し入れや階段を除く家中に設置できて、坪当たり3万円だそうなので、45坪の家だと設置面積が40坪として、120万円。金額は先ほどの2倍ですが、これで家中まるごとカバーすると思えば、一般の床暖に比べてかなり割安です。
しかし、それをもってしても、エアコンに比べると倍くらいの価格です。
費用面ではエアコンに相当劣ると言わざるを得ないでしょう。

 

4.決定的な弱点

当たり前ですが、床暖で冷房は出来ません。
冷房のためには結局エアコンが必要です。前項で、「低コストな一条工務店の床暖でもエアコンの2倍の価格」と書きましたが、床暖があってもエアコンが無くせるわけではないので、結局3倍くらいの出費になります。

冷水を流したら床暖ならぬ床冷にならないかと考えてみましたが、床で結露が発生する可能性が極めて高く、問題ありすぎです。冷房の最大の難しさがこの結露問題をどうクリアするかです。(エアコンは機械の中で結露させることで上手く処理しています。)
ちなみにどの程度難しいかというと‥‥、

私が快適に感じる28℃/50%RHの空気は、17℃まで結露しません。20℃程度の冷水を床パネルに循環させても結露は発生しません。定常運転状態に限れば、結露の懸念はあまりないと言えるでしょう。
ところがひとたび窓を開けて32℃/80%RHの外気が流れ込んできたとたん、その空気は28℃で結露が始まります。床面がびしょびしょになることは必至です。
完全に閉じて暮らすなら問題ない様にも思えますが、実際には玄関の開け閉めなど、避けられない外気の流入はあります。その度に床がぐっしょり濡れるのではたまりません。開けるときに冷房を切れば問題ありませんが、窓を閉じて再度冷房を始めようとしたとたん、床はびしょ濡れです。

床冷は現実的には不可能と考えざるを得ません。

 

5.その他

どうやら床暖は、「快適ではあるけれど、相当にコスト高な暖房方式」という、当たり前の結論にならざるを得ないようです。

さて最後の、そして最も重要な疑問は、「その快適さは床暖でなければ得られないのか?」です。私はずっとこの質問の答はYesだと思っていたのですが、必ずしもそうではないようです。

その実例がこれ(2020/04/26注:リンク切れ)。床暖は無いにもかかわらず、訪れた人が「床暖はいいですねぇ」と褒めてくれる不思議な家です。鉄筋コンクリート(RC)造であることから推定すると、その快適性は、大きな熱容量によってもたらされたのだと思われます。天井、壁、床の全てが室温と同じ温度になっており、そこから出てくる豊富な遠赤外線が、床暖と間違えるほどの快適性を産んでいるのでしょう。

どうやら、床暖でなくても床暖と同じ快適性を得られそうです。ただ、RC造は床暖のコストアップどころではなく価格が上がるので、割安に実現したいという要望とは逆方向になってしまいます。木造のままで熱容量を大きく出来れば、快適性と低コストの両立が出来るかも知れません。
問題は、どのくらいの熱容量があれば床暖同等の快適性になるのかがよく分からないことですね。「試しに実験してみるか」というわけにもいきませんし‥‥。
こういうのこそ、豊富な資金力のあるハウスメーカが実験して確認して欲しいものです。その為の研究開発費なのですから。

私自身がどうするかは、のんびり考えることにします。