自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

窓の性能-前編-

先日は日射の取り入れ方、避け方について書きましたが、次は実際に日射を採り入れる(あるいは遮る)ことになる窓について。

1.そもそも熱の伝わり方は3つある

そもそも窓に限らず、熱が伝わるメカニズムには、「伝導」、「対流」、「輻射(又は放射)」の3つがあります。

伝導は物体を熱が伝わっていく現象です。暖かい物に触れると、その物から掌に熱が「伝導」してくるので、手が温かくなるというのがこれです。このメカニズムについて熱の伝わり易さの大小を数値で表したのが、「熱伝導率」です。逆に言うと、対流と輻射は熱伝導率には含まれていません。
対流は液体又は気体でしか発生しないメカニズムで、「熱を持った物質自体が移動する」というものです。暖かい空気が上昇して部屋の天井近くに行くのは、「熱を持った空気が移動することで、熱を天井付近まで運んだ」と解釈できます。伝導の場合物質自体は動きませんが、対流では物質自体が動きます。
輻射は熱容量の話のときにちょっと触れました。自分が持っている熱エネルギーの一部を遠赤外線という形で放出することで、周囲に熱を与えるメカニズムです。伝導や対流の場合、熱が運ばれるためには何らかの物質が必要です。ところが輻射の場合、物質が無くても熱が伝わります。赤外線は電磁波の一種で、真空中でも伝わる性質を持っているからです。(なので、物質があっても勿論伝わります。赤外線さえ伝われば。) 太陽から地球に来るエネルギーは、全て輻射のメカニズムによってやってきます。

整理すると、
物質が熱をバケツリレーのように手渡しして運ぶのが「伝導」。物質自体は動かず、バケツだけが動いていきます。
物質が熱を持って自ら移動するのが「対流」。物質がバケツを持って走ります。
物質がバケツを放り投げるのが「輻射」。一旦放り投げれられたバケツは、別の物質にキャッチされるまで跳び続けます。
ということです。

窓についても、この3つのメカニズムの複合によって熱の出入りが生じます。熱が伝わる経路が3つあると考えれば良いです。

2.窓の仕様と熱伝導メカニズムの関係

窓の仕様には「複層ガラス」とか「Low-E」といったものがあります。それぞれ採用すると断熱性が高くなるのですが、前述の熱が伝わる3つのメカニズムのうち、どの伝導メカニズムを遮断しようとしたものなのか、その関係を整理します。

<複層ガラス>
これは主として伝導を遮断しようとする仕様です。単板ガラスの場合、ガラスの熱伝導率で窓としての断熱性がほぼ決まりますが、ガラスを2枚にして、その間に空気という熱伝導率の低いものを挟み込むことで断熱性を上げたものです。
空気層がある分、総厚は増します。例えば「3mmガラス+12mm空気層+3mmガラス」だと、全部で18mmの厚さですが、これと「18mm厚の1枚ガラス」を比べたら、複層ガラスの方がずっと断熱性が高いです。これは、空気とガラスの熱伝導率の違いによるものです。
熱伝導率の低さで言うと断熱材(グラスウールやEPS)をガラスの間に挟んでもいいのですが、空気の方が安価でしかも性能が高いこと、そして何より、断熱材を挟むと外の景色が見えず、窓としての機能を果たさなくなるため、空気が使われます。
断熱材と同じく厚い方が断熱性が高くなるため、空気層の厚さがどのくらいあるかが重要です。一般的には12mmあれば十分とされているようです。
断熱材と違って対流があるので、厚さに比例して断熱性が高まるというわけにはいきません。対流に足を引っ張られて、ある程度以上は厚くしても性能が頭打ち気味になります。下記はYKKapのデータですが、空気層の厚さが増したときの熱貫流係数(K値)の改善幅が、徐々に少なくなっていくのが分かります。

空気層厚さ[mm]  熱貫流係数[W/m2・K]
--------------------------------------------------
     4        3.7
     6        3.4
     8        3.1
   10        3.0
   12        2.9
   14        2.8
   16        2.8


これを見る限り、「12mmあれば十分」という意見が妥当だと分かります。それ以上に空気層を厚くしても性能がほとんど上がらないからです。

<アルゴンガス封入>
これも伝導を遮断することを意図した仕様です。狙いは複層ガラスと同じですが、間に挟む物質として空気よりも更に熱伝導率が低いアルゴンというガスを選ぶことで、より高性能にしたものです。

<真空ガラス>
複層ガラスの一種で、2枚のガラスの間を真空にしたものです。アルゴンガスの代わりに更に熱伝導率が低い「真空」を封入した、と言うと表現が変ですが、そんな感じです。実際に販売されているのは日本板硝子スペーシアという製品だけです。
ガラスとガラスの間に物質が無いので、伝導と対流の2つのメカニズムがほぼ完全に遮断されます。熱伝導率がゼロなので、厚さを増して性能を上げる必要が無く、ガラスとガラスの隙間はごく狭く作られています。この為、複層ガラスでありながら、トータルの厚さを比較的薄くできます。
隙間を真空にすると2枚のガラスは大気の強烈な圧力で押されてくっついてしまいますので、それに耐えて真空の隙間を維持するために、ガラスとガラスの隙間にはスペーサと呼ばれるつっかえ棒があります。数cm間隔で規則的に、1mmにも満たない点のようなつっかえ棒が配置されています。
つっかえ棒の部分は、俗に言う「熱橋」になって、そこだけ大きな熱伝導が発生しますが、面積比率で言うと0.1%にも満たないようなものなので、影響は1/1,000以下です。ほとんど考慮する必要はないでしょう。

<Low-Eガラス>
Low-EのEは"Emission"、つまり輻射のことですから、輻射が少ないガラスという意味です。小難しい感じですが、要するに「遠赤外線をあまり通さないガラス」という程度に理解すれば間違いありません。
遠赤外線を通さないようにするだけなら簡単ですが、その一方で、窓ガラスなので光(可視光線)を通さねばならず、その両立はなかなか面倒です。というのも、光と遠赤外線は性質が割と似ているからです。
喩えて言うなら、遠赤外線は「低い音」で光は「高い音」、という感じでしょうか。「ドレミファの音は通さないけど、ソラシドの音は通す」のはちょっと難しそうだなと分かっていただけるのではないでしょうか。全ての音を通さなくするなら、それほど難しくはありませんが。

で、ガラスの表面に薄い金属酸化膜を形成して、その難しい両立を図ったのがLow-Eガラスというわけです。薄い膜を付けるとどうして両立できるのかは難しい話なので省略するとして、実際のところ、どの程度の両立が図れているのかを示したのが下図です。YKKapのカタログから拝借してきました。

イメージ 1

これはガラスの種類によって光と赤外線をどの程度通すかをグラフにしたものです。実はこのグラフには遠赤外線が書かれていません。探してみましたが、遠赤外線の部分まで書かれているグラフを見つけられなかったもので。
横軸は「光の波長」と書かれていますが、これの400から700までが目に見える光(可視光線)です。そして、700より数字の大きな部分が赤外線、特に近赤外線と呼ばれるものです。遠赤外線はこのグラフの中には入っておらず、もっとずっと右の方、横軸の数字で言うと、4,000から10,000くらいまでの間になります。

フロート3mmというのは普通の単板ガラスのことですが、可視光線だけでなく、近赤外線全域に渡って良く通すことが分かります。グラフの外側にはみ出した遠赤外線の領域についても、恐らく同程度の透過率になっているはずです。複層ガラスはガラスが2枚になる分だけ全体的に透過率が下がりますが、大差ありません。
一方、Low-Eガラスはどれも可視光線をそこそこ通す割には、近赤外線をあまり通さないようになっていることが分かります。遠赤外線はこのグラフでは分かりませんが、恐らくグラフの右端がずっと下がったまま暫く続いているはずです。近赤外線よりも更に透過率が低いということです。
1つ補足すると、ここで言う「通さない」とは、「吸収」するのではなく、「反射」することを意味しています。ガラスの向こう側には届かないという点だけ見るとどちらでも同じですが、窓ガラスとしての役目を考えると決定的にこの違いが重要です。もしも吸収するのだとすると、吸収したエネルギーが熱に変わり、ガラスが発熱することになります。しかし、反射する場合はそうはならず、もと来た方向にエネルギーが返っていきます。
整理すると、Low-Eガラスは以下のような性質を持っていることになります。

可視光線は概ね良く通す
・近赤外線はやや遮る(反射する)が、それなりに通す
・遠赤外線はほとんど通さず、大半を反射する

特に重要なのは、近赤外線と遠赤外線に対する挙動の違いです。実はLow-Eガラスは、この2つの性質を両立させる為に開発されたようなものです。
では、何故「近赤外線はそこそこ通し、遠赤外線は反射する」という性質が欲しいのか?

部屋の中のモノ(床や壁、それから部屋の中にいる人の人体も)からは、遠赤外線が放出されています(これが輻射です)。熱エネルギーを放出するのですから、放っておくとどんどん温度が下がります。ここで、窓ガラスが遠赤外線を反射するように出来ていれば、室内のモノや人が発した遠赤外線は屋外に逃げることなく、部屋の中に戻ってきます。戻ってきた遠赤外線は、また部屋の中の何か(床や人体)に当たって吸収されることになるので、部屋全体としてはエネルギーが逃げず、温度は下がらなくなります。
以上のようなメカニズムをもたらすためには、「遠赤外線を反射する」ことが必要なのです。

一方、近赤外線を通すのは、太陽の暖かさを室内に採り入れるために必要です。
先ずはWikipediaの太陽光スペクトルのグラフを見てください。太陽からやってくるエネルギーの総量はオレンジに塗られた面積を見れば良く、可視光線(400~700nm)も多いですが、近赤外線(700~2,500nm)がそれと同じかむしろ可視光線よりも多いことが分かります。
このエネルギーを十分に室内に採り入れられれば、冬に十分配慮した住宅を作ることが出来ます。その為には、可視光線だけでなく、近赤外線もなるべく多く通す必要があるのです。

「でも、Low-Eじゃないガラスに比べると、近赤外線の透過率は低いぞ」
その通り。低くて良いわけではありませんが、実際には低くなっています。実は、太陽のエネルギーを採り入れる能力は普通のガラスの方が上です。その差はグラフから分かる通り、2倍くらい違います。
しかし、遠赤外線の透過率は、普通のガラスに比べてLow-Eガラスは1/10以下です。
結局、入ってくる太陽エネルギーは半分になるけど、出て行くエネルギーが1/10以下になるので、差し引きすると室内に残るエネルギーは大幅にLow-Eガラスの方が多くなるのです。つまり、冬に暖かいガラスというわけです。

この様に、エネルギーの「入り」と「出」を非対称にすることが出来るのはLow-Eガラスだけです。複層ガラスもアルゴンガスも断熱に寄与しますが、入るのと出るのを等しく遮ることしかできません。
快適かつ省エネルギーな住宅を実現するには、Low-Eガラスは不可欠なアイテムと言えるでしょう。

-後編に続く-