自宅新築日記

自宅の新築にまつわるあれこれを綴っていくつもりです。

窓業界も閉鎖的

窓の性能について書きましたが(前編後編)、今回は定量性に欠ける話にならざるを得ませんでした。と言うのも、窓メーカから窓の性能に関する数値が公表されていないからです。勿論、全く公表されていないわけではありませんが、「性能等級のH-3」など断片的な情報に留まっています。
ちなみに、JISの性能等級は下記のように規定されています。

性能等級  熱貫流率(K値)[W/m2・K]  次世代省エネ基準との対応
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 H-1   4.07 ~ 4.65          Ⅳ,Ⅴ地域推奨
 H-2   3.48 ~ 4.07          Ⅳ,Ⅴ地域推奨
 H-3   2.91 ~ 3.48          Ⅲ地域推奨
 H-4   2.33 ~ 2.91          Ⅲ地域推奨
 H-5   2.33以下            Ⅰ,Ⅱ地域推奨

例えば、YKKapのAPW330というシリーズを見てみると、仕様は「樹脂サッシ、複層ガラス、Low-Eガラス」までが標準で、オプションで「アルゴンガス封入」が選べるようになっています。ところが、性能は「H-5等級」と書いてあるだけです。アルゴンガス封入の有無で性能は違ってくるはずなのに、どのくらい違うのかは何処にも書かれていません。
よーく読むと、アルゴンガスと空気の熱伝導率の数値(0.016と0.024[W/m2
・K])が書いてあり、「アルゴンガス封入なら更に断熱性能が高まります」とありますが、封入気体だけの熱伝導率を書かれても判断しようがないでしょう。消費者をバカにしてるんでしょうか?

窓の断熱性能は、ガラス部分とサッシ部分(枠の部分)の複合で決まりますから、ガラスの面積比率が大きい掃き出し窓と、その逆の小窓ではK値が違ってくるはずです。また、引き違い窓とすべり出し窓でも違うはずです。なので、そういうあらゆる仕様に対して数値を公表するのは非常に手間がかかることでしょう。その事情は理解できます。しかし、だからと言って性能面で最も重要な指標を(しかも断熱性を売りにしている商品なのに)公表する手間を惜しむというのは、消費者の要望に真面目に向き合っているとは言えません。
いくつかの代表的な寸法・仕様の窓において、K値を公表するくらいの手間は惜しんではならないでしょう。
低燃費を売りにしている自動車で、燃費の数値が公表されていなかったら、一体どう思われるでしょうか?

なお、以上の批判はYKKapだけでなく、他のほとんどの窓メーカに当てはまります。

もう一つ不思議なのは、性能の数値を公表しないことで、メーカとして損しているのではないかと言うことです。
先ほどのAPW330でいうと、「H-5等級」としか書かれていないので、「2.33以下と言うことは、まあ、2.33と思っておけば間違いないな」と判断します。オプションのアルゴンガス封入を選んでも数値は見かけ上変わりません。(正確には「分からない」ですが。)

一方、一条工務店では窓のK値を1.72と公表しています。同社が採用しているのはエクセルシャノン社のもので、仕様は「樹脂サッシ、複層ガラス、Low-Eガラス、アルゴンガス封入」となっています。
両社を比較すると、見かけの仕様は同じなのに、一方は2.33、もう一方は1.72です。「おお、さすがシャノンウィンドウは素晴らしい」ということなのでしょうか?
私はそうは思いません。仕様が同じなら断熱性がそう大きく変わるはずはないからです。ガラスは窓ガラス用である限りソーダライムガラスで特性の違いは生じる余地がありません。アルゴンガスも同様。Low-Eの仕様は多少違いの出る余地がありますが、0.2~0.3がせいぜいです。
サッシ部に関しては、どちらも塩ビ素材で基本的には同じモノです。また、面積比率がガラスに比べて小さいので、影響は小さいです。

そんなわけで、APW330とシャノンウィンドウはどちらも同程度の断熱性を持つと思われます。となると、APW330は熱貫流率が1.7程度の性能を持つはず(アルゴンガス封入の場合)であるにもかかわらず、カタログ上は単に「2.33以下」としか書いていないのです。
これは他の業界(家電や自動車)の感覚で言うとちょっと信じがたいことです。これらの業界では「性能が良いなら是非アピールしたい」となるのが普通だからです。実際、家電の省エネ性能や自動車の燃費は数字での競争になっています。サッシ業界でのやり方は、自動車業界で言えば、燃費の数字を公表せずに、「○年度燃費基準を達成しています」とだけ表示するやり方です。これでは消費者に対して十分な情報開示をしていると言えないでしょう。
ハウスメーカを通じて、YKKapに「実際のK値はどうなのか?」と問いあわせてもらいましたが、「JISで性能等級が規定されているので、それのどれに準拠しているかしか公表していません」と、木で鼻をくくったような回答でした。

恐らく、ハウスメーカや工務店が窓メーカに対してそういう要求をしないから、窓メーカものほほんとしているのでしょう。こういう数値はQ値の算出には不可欠ですから、言い換えればQ値を気にして建てているメーカが少ないと言うことです。時代の流れからまるで取り残されていると感じるのは私だけではないでしょう。

実際のところ、数値競争には弊害もあります。数値自体がある条件の下で算出されたモノに過ぎないので、現実の使用環境での性能とは異なるのが実体です。
それでも、「燃費が18km/Lと20km/Lでは実際に使ったときも20km/Lの方がいいはずだ。20km/Lと20.1km/Lの差なら実用燃費では逆転するかもな」といった判断は可能ですし、実際に多くの人はそうやって数値を商品選びに活用しています。

家電や自動車の業界では部分的に行きすぎた数値競争を戒めることも必要ですが、窓業界(に限らず住宅業界全体)はもっともっと数値競争をして欲しいものです。
2014/02/04追記
この記事を書いてから3年以上経ち、やっと業界に新しい風が吹き始めた ようです。